グローバル市場での勝ち方―大和ラーメン学校開設以来17年の積み重ねによるラーメン店店主も知らない課題解決:第五章 日本と海外の食習慣は全く異なり、海外の食習慣を理解しないで、失敗をする人が後を絶たないのが現状です。 日本人が海外進出で失敗しやすい課題をまとめました。

日本の現状は、少子高齢化と併せて、人口減の時代になり、さまざまなビジネス市場がどんどん小さくなっているのです。
従って、今以上にビジネスを拡大しようとすると、大きな市場がある海外に伸ばすことは、日本の外食産業にとって大きな課題であるのです。

最近、人気の高まりとともに、世界中に広まったラーメンは、すべて日本発祥なので、日本のラーメンをそのまま海外に持って行けば、成功すると勘違いしている人が多いのです。
日本と海外の食習慣は全く異なり、海外の食習慣を理解しないで、失敗をする人が後を絶たないのが現状です。

下記に、日本人が海外進出で失敗しやすい課題をまとめました。

1.ラーメンは日本では、Fast Foodですが、海外ではDining あるいはCafé

日本人はラーメン店で昼食として、ラーメンを食べる時間は、10分から20分程度で、客席回転率は平均1時間に3回転はするのです。

ところが、海外では、ランチでも1時間程度かけてゆっくり食べるので、回転率が非常に悪く、食事を早く食べる習慣がないのです。

海外では、日本のような麺文化が発達していないので、麺が延びるという感覚がなく、まず、スープを最初にスプーンでゆっくり飲んで、次にスープを吸って延び切ったラーメンをフォークとスプーンで、フォークに巻き付けながらゆっくり食べるのです。
従って、日本と同じような20~30席の小さい店を作ると、売上が全然上がらないという結果になり、ビジネスが成立しないのです。
これは、日本のラーメン店しか知らず、日本でしか生活したことのない日本人が一番陥りやすい問題点なのです。

日本ではラーメンという食べ物は、早く食べる、典型的なFast Foodですが、海外ではラーメン店は、CaféかDiningのような存在なのです。
従って、海外では、ラーメンと居酒屋、寿司とラーメン店を融合したような店が多いのです。

2.味覚は国ごとに大きく異なる

お隣の国、韓国は食べ物の塩度が非常に低く、塩辛い食べものを好まない国です。

世界中に塩辛い食べ物を好まない国は非常に多く、世界中で博多トンコツラーメンの人気が高いのも、スープがクリーミーでスープの濃度が高く、その分、塩分濃度が非常に低いので、世界中で博多トンコツラーメンは受け入れられているのです。
博多トンコツラーメンの延長で、最近は同じようにクリーミーな鶏白湯ラーメンの人気が高まっているのです。

反対に気温の低い東欧の国々は、塩度の高い食べ物を好む国もあります。
東南アジアの国々で好まれる味も国によってはさまざまで、例えば、フィリッピンでは、甘くて塩辛い味、シンガポールでは甘くて、スパイシーな味が好まれます。
これは、海外でなくても日本の国内でも地域差が大きく、気温の低い北海道では塩度が高く、九州では甘い味が好まれます。

このような地域差を理解しないで、店舗を開くとなかなか受け入れられないのです。
このような味覚だけでなく、宗教上の縛りもあり、イスラムの人たちはハラル対応の食事でないと、食べられないのです。

3.海外に出れば、必ず失敗する

海外に出れば、失敗するのは当たり前で、致命傷にならない程度の失敗を早くたくさん経験し、ノウハウを蓄積するのが大切です。
まず、国により法律も違えば、制度も違い、食習慣、味覚の違い、宗教上の課題、教育制度、教育レベルの差等々、切りがないくらい、さまざまな問題に遭遇します。
これでは、成功する方が不思議なくらいで、失敗しないでいきなり成功することはあり得ないのです。

過去、海外進出して失敗しなかった会社はなく、失敗の経験をたくさん積み、いかに失敗を次につなげられるかが勝負です。
日本での成功体験を捨てることも大切です。

最初の1店舗の成功に時間をかけ、成功するビジネスモデルを作り上げ、ビジネスモデルが完成したら、一気呵成に攻める。

その場合に、同じビジネスモデルが通用する狭いエリアで多店舗展開するのが、一番効率が良いのです。

4.どこから攻めるかで、成功の確率がかなり変わる

現地の政情、国民性、飲食事情、味覚の好みを理解し、自分に合った国を見つけることも欠かせません。
ほとんどの場合は、現地のパートナーが重要な要素になり、誰をパートナーに選ぶかでビジネスの成否に大きな差が出るので、パートナー選びを間違わないことが大切です。
また、同じ国でもどこから始めるかにより、成長のステップが異なるので、成功体験を積み重ね、学習速度を上げていくことです。

ほとんどの国は、外食産業の地位は日本より高く、外食産業は将来有望な事業と見なされている国が多く、成長率も高いのです。
先進国以外では、外食産業が日本の30~40年前の状態のような国が多いのです。
先進国においても、外食産業は日本よりはるかに成長性が高いのです。

日本の外食産業の一番の課題は、価格が安すぎ、その価格は安い人件費が犠牲になって成り立っているので、日本でも近い将来は、外食産業の大転換期が来ることが想定されるのです。
このままでは、人手不足で成り立たない店、会社がたくさん出て来て、自然淘汰が始まります。

5.日本人スタッフに頼らない経営をする

海外ビジネスで成功している企業を見れば、日本人スタッフに頼らない経営が目立ちます。

最近、Fine Diningの世界では、日本食がテーマになり、多くの高級な日本食レストランが世界中で成功を収めていますが、日本人スタッフが介在していない店があります。
ロンドンに本部のあるROKAとかZUMAでは、日本人スタッフがほとんどいなくても、多くのお客さまを魅了し続ける料理を提供し続けているのです。

それとは反対に、これからラーメン店を世界展開しようとしている会社などで、日本人スタッフにこだわっている事例をみます。
現在、海外で活躍できる日本人スタッフを探すのは、非常に難易度が高いのです。

ひとつの課題は、以前ほど、海外に魅力を持って、海外に行こうとする日本人が非常に減少しているのです。
これは、北米の有名大学に留学している日本人学生の数からも良く分かることです。
最近の日本人の若者が外向き志向ではなく、内向き志向になってしまっているのです。
従って、海外での店舗展開では、日本人ではなく、気概のある外国人の採用が欠かせない時代になっていると思います。
そして、そのような人を会社の有力な戦力に仕立て、現地化していくことが、これからのグローバル化する企業には欠かせないと思います。

2つ目の課題は、ほとんどの先進国で外国人がビザを取り、働くことが難しくなっている国が増えているのです。
そのため、国籍とか、永住権を持っている人を採用する以外に方法はないのです。

6.現地人の人件費が日本より高い国が多くなっている

日本では外食産業の地位が低く、併せて賃金も非常に低いので、理解しにくいことかもしれませんが、日本より1人当たりのGDPの高い国は、従業員の給与も非常に高いのです。

例えば、日本は1人当たりのGDPは3万8千ドル(約420万円)で、世界25位ですが、ほとんどの先進国は1人当たりのGDPが日本より高く、最も高いのはスイスとかノルウェーで、1人当たりのGDPも日本の約3倍で、パートの時給も約3千円なのです。

従って、これらの国々では生産性を高め、高い人件費を払っても十分な利益の出るビジネスにしなければいけないのです。
その点、日本食は世界中でステータスが高く、価格が高くても通用しやすいので、有利なのです。
ただし、高い価格に見合った高い価値を提供しないと、お客さまの信頼を失ってしまうのです。
ここでは、あくまで現地の人たちが感じる高い価値であり、われわれが日本のお客さまを対象に経験している価値とは少し異なるのです。
現在の北米では最低時給がほぼ2千円に近づき、スイス、ノルウェーでは約3千円が相場になっているのです。

7.海外でも競争のないブルーオーシャンの勝ち易いエリアを選ぶ

現在、北米の大都市、欧州の大都市では、ラーメン店はどこに行ってもあり、競争も日増しに激しくなっているのです。
そのような場所を選ぶと、出店のための難易度が高く、投資金額も大きくなり、競争のレベルも非常に高いのです。
従って、相当高いレベルを持っていないと勝てないのが事実です。

反対に海外の生徒さんを見ていると、誰も進出していないような場所を選んでいる人ほど、楽に成功ができていて、大きな利益を獲得できているのです。
もっと言えば、ラーメンとかうどん蕎麦のような日本の麺料理で、海外で勝負するのであれば、本場から遠ざかった場所ほど、競争がなく儲かり易いのです。

さぬきうどんであれば、本場香川県で出店すれば、最も競争が激しく、儲かり難いのです。

8.飛び地で店舗展開しない

私は40数年間にわたり、国内の麺ビジネスの盛衰の歴史を見てきて、併せて海外での麺ビジネスの盛衰も見てきたのです。

その経験から言えるのも、できるだけ狭いエリアで多店舗展開し、そのエリアでは誰も進出できないくらいの完全なトップになることがこのビジネスを制する重要な要点であると気づいたのです。

私は、日本の外食産業のうち、海外進出で最も成功している事例は、タイのハチバンラーメンだと信じているのです。

狭いエリアで多店舗展開すると、下記の様に、メリットはあり余るほどあります。

  • 狭いエリアの多店舗展開は、人手の融通をつけやすい(確保も楽になる)
  • ノウハウの蓄積が早くできる
  • 地域一番になり、お客さまの信頼が増し、認知度が非常に上がる
  • 他のライバルが進出できなくなり、ひとり勝ちの独走態勢を取れる
  • 小さい池(市場)で、大きな魚になり、利益が出易い

この戦略は、自動車業界で言えば、インド進出で大成功したスズキのようなものです。スズキが進出したころのインドは、貧しい国で自動車市場も十分大きくなっていなかったので、他の大手メーカーはどこも相手にしなかったのです。

そこで、他の国では競争に勝てなかった大手と比べて体力のなかったスズキがインドに賭けたところ、インド市場が成長した現在では、他社が入り込めないくらい、インドではスズキの独り勝ち状態になっているのです。

9.海外展開も人で決まる

私は海外ビジネスで成功している事例をみると、1つ目の課題は現地パートナー選びで、世界の多くの国では、合弁でなければ事業ができない国が多いのです。
その場合に、誰をパートナーにするかで、ビジネスが成功するかどうかが決まっているように思います。

一番大切なことは、パートナーと価値観が自分と同じ、あるいはちゃんと共有できる相手かどうかです。
もし、最悪、両者の関係が破綻した場合に、多くの損害を被るのは、こちらから出向いている日本企業で、丸裸で帰国する事例を多く見ています。

次に、現地の責任者を誰にするかで、日本人であろうと、現地人であろうと、価値観が共有でき、金銭的にルーズでなく、責任感のある人間を選ぶことが大切です。
人間的には素晴らしいのだが、ビジネス的でない人もたくさんいるので、人間的に素晴らしく、金銭的にもシッカリしていて、責任感があり、リーダーシップがある人でなければいけないのです。
このような人は簡単には見つからないので、時間をかけてでも、妥協しないで選定することが大切です。

10.進出する国を決定する要因

これから進出する場合に、進出する国を決定するための要員として、次のような要因が挙げられます。

  • 親日度
  • 飲食ビジネスの競争度合い(国ごとに飲食ビジネスの競争状態は異なり、世界で最も競争が厳しいのが韓国で、日本の2倍ほど競争が厳しい、次がスペイン、3番手が日本)
  • 国の豊かさ(1人当たりのGDP)
  • 外食の成熟度
  • その国の経済的な80年周期のサイクルのどこに位置するか
    (社会の四季は、20年サイクルで春夏秋冬を繰り返し、日本の国は現在冬の真っ最中で、国ごとに季節が異なり、今、春の国もあれば、夏の国(高度成長期)、秋の国(高度成長が終わり冬に向かっている国)もある)
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プレゼンター

藤井 薫(ロッキー藤井)

藤井 薫(ロッキー藤井)

株式会社大和製作所、株式会社讃匠 代表取締役。
令和5年 秋の叙勲にて「旭日単光章」受章。

1948年5月、香川県坂出市生まれ。国立高松工業高等専門学校機械工学科卒業。川崎重工株式会社に入社し、航空機事業部機体設計課に配属。その後、独立し、1975年に大和製作所を創業。

過去48年以上にわたり、麺ビジネスを一筋に研究し麺ビジネスの最前線で繁盛店を指導。麺専門店の繁盛法則について全国各地で公演を行う。小型製麺機はベストセラーとなり、業界トップシェアを誇る。
「麺店の影の指南役」「行列の仕掛け人」として「カンブリア宮殿」「ありえへん∞世界」「スーパーJチャンネル」等、人気TV番組に出演するほか、メディアにも多数取り上げられる。
また、2000年4月にうどん学校、2004年1月にラーメン学校とそば学校を開校し、校長に就任。

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