無名店を日本一にした「離」の戦略。有名店を同じラーメンでは勝てない|世界麵未来研究所

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世界麺未来戦略研究所

こんにちは。

大和製作所の創業者、ロッキー藤井です。

味には自信がある。材料にもこだわっている。一生懸命、店を切り盛りしている。それでも、有名店に勝てない。このような悩みを持つ経営者は、少なくありません。

なぜ、努力しても勝てないのでしょうか。

大きな原因の一つは、有名店と同じ市場で戦っていることです。

醤油ラーメンなら、すでに有名な醤油ラーメン店があります。味噌ラーメン、豚骨ラーメン、つけ麺も同じです。

お客さまは、同じ種類の商品であれば、味、価格、知名度、口コミ、立地で比較します。

無名店が、有名店と同じ商品を出せば、最初から不利な競争になります。

私は、無名店が有名店に勝つためには、同じ土俵で戦ってはいけないと考えています。

強い店とは、競争に勝った店ではありません。競争する必要のないカテゴリーをつくった店です。それが、「守破離」の最後にある「離」の戦略です。

先にあったのは、氷見を伝えたいという思い

富山県氷見市にある三興土木株式会社の3代目社長、久保俊介さん。久保社長の本業は、土木・建築、砂利の採取・販売です。2015年7月、大和製作所のラーメン学校へ学びに来ました。

当時、飲食業では、まったくの新人でした。ラーメン店としての知名度もありませんでした。

もし、久保社長が普通の醤油ラーメンをつくっていたら、どうなっていたでしょうか。

全国には、何十年も醤油ラーメンをつくり続けている有名店があります。

同じ醤油ラーメンというカテゴリーで比べられれば、無名の新人は圧倒的に不利です。

久保社長がつくったのは、有名店と同じ商品ではありませんでした。次のような食材や工夫を、一杯に取り入れたのです。

氷見の片口イワシを使った出汁。トマト。一般的なカゴメのトマトケチャップを土台に、より高級なカゴメのトマトソースを加えた配合。国産小麦を100%使用した自家製麺。氷見特産のはと麦粉。7種類の醤油を組み合わせた元ダレ。自家製レアチャーシュー。氷見産コシヒカリを使った、締めのリゾット。氷見で唯一のワイナリー、セイズファームのシードル(リンゴの発泡酒)。同業の鎌仲建設が氷見で栽培する山ぶどうを使ったジュース。

カゴメ製品の良さも、一杯の中で伝える

ナポリタンスタジアムは、カゴメが主催する大会です。

久保社長は、氷見の食材を伝えるだけでなく、主催者の意図を汲み取り、カゴメ製品のおいしさもしっかり伝えたいと考えました。

そこで、一般的なカゴメのトマトケチャップを土台に、より高級なカゴメのトマトソースを加えました。

高級なソースだけを使うのではなく、味と原価のバランスを考えながら組み合わせたのです。

さらに、シードルはスープに爽やかさを、山ぶどうジュースは酸味を加えました。

久保社長は、自分が本当においしいと思い、もっと多くの人に知ってほしいと願ったものを、一杯の中に集めました。

そして完成したのが、「氷見イワシ香るナポらー麺」です。

ラーメンでも、ナポリタンでもない

ナポらー麺は、普通のラーメンではありません。かといって、普通のナポリタンでもありません。ラーメンとナポリタンを融合し、さらに氷見の食材と物語を加えた新しい商品です。

お客さまは、この商品を醤油ラーメンや味噌ラーメンと単純に比較できません。

「氷見イワシ香るナポらー麺」という、新しい基準で判断することになります。

ここが重要です。

久保社長は当時、「有名店と戦わない市場をつくろう」「独自路線で一番になろう」と最初から考えていたわけではありません。

先にあったのは、「氷見の良いものを、もっと多くの人に知ってもらいたい」という思いでした。

その思いを突き詰め、自分が本当に良いと思う氷見の食材を一杯に取り入れていった結果、ほかと比較されない新しい市場が生まれたのです。

これが「離」です。

「離」とは、単に変わった商品をつくることではありません。

自分の技術、地域の資源、店の使命、店主の物語を結びつけ、ほかの商品とは比較できない価値をつくることです。

全国209品の頂点へ

2021年4月29日、カゴメ「ナポリタンスタジアム2021」の決勝戦が行われました。

全国から応募されたメニューは、209品。その中から勝ち残った3品が、最終審査へ進みました。

久保社長の「氷見イワシ香るナポらー麺」は、審査員長の平野レミさんをはじめとする4名の審査員によって、満場一致で日本一に選ばれました。

全国209品の頂点です。

土木会社の3代目社長。飲食業では無名の新人として出発した人。その久保社長が、日本一になったのです。

これは、有名店より少しおいしい醤油ラーメンをつくった結果ではありません。

ほかにはない、新しいカテゴリーをつくった結果です。

成功商品をそのまま持ち込まなかった

翌2022年、久保社長は東京ラーメンフェスタへ出店しました。

そこで提供したのは、日本一になったナポらー麺ではありません。

選んだ商品は、「氷見イワシの富山ブラック 氷見ツの黒 2022スペシャル」でした。

富山ブラックは全国的に知られています。しかし、「氷見のブラックは、まだ秘密です」という意味と「氷見」を掛けて、「氷見ツの黒」と名づけました。「氷見ツ」には、このラーメンの「味の秘密」という意味も込めました。

さらに、会場では保健所に関わる制約があり、白ごはんを提供できませんでした。富山では、味の濃い富山ブラックを白ごはんのおかずのように食べる文化があります。そのまま東京へ持ち込めば、一杯を最後までおいしく食べてもらえない可能性がありました。

そこで、氷見産片口イワシをたっぷり使って出汁をきかせ、富山ブラックらしさを残しながら、白ごはんがなくても食べ切れる、コクと旨みのあるマイルドな味に変えました。麺には氷見特産のはと麦を練り込みました。

これは、既存の富山ブラックをそのまま出したのでも、日本一の商品をそのまま持ち込んだのでもありません。

会場の条件に合わせ、そこへ氷見らしさを加えた「破」から「離」への商品開発でした。

出店2日目には行列ができ、用意していた1,150杯は17時前に完売しました。

自家製麺がなくなった後は、他店から借りた麺であることをお客さまへ伝えたうえで、18時30分から販売を再開しました。

借りた麺100玉でつくったラーメンも、約20分で完売しました。5日間で提供した杯数は、4,555杯でした。

氷見に残った社員が毎日、自家製麺とチャーシューをつくって東京へ送り、会場のメンバーと周囲の支援者が連携して実現した数字です。

最大で1時間に約200杯を提供しました。

ナポらー麺と「氷見ツの黒」は、まったく違う商品です。しかし、二つには同じ戦略がありました。

単にラーメンを売るのではなく、ラーメンを通して氷見を知ってもらう。その使命を守りながら、商品と提供方法を市場に合わせて変えたのです。

アップルのiPodを「守破離」の視点で見る

世界の商品にも、「守破離」として捉えられる事例があります。その一つが、アップルのiPodです。

携帯音楽プレーヤーの市場を切り開いた代表的な商品は、ソニーのウォークマンでした。

音楽を外へ持ち出して楽しむ。この価値を、世界へ広げました。

アップルも、「音楽を持ち歩く」という考え方そのものを発明したわけではありません。

すでに存在していた携帯音楽プレーヤーの基本を学ぶこと。これを「守」と捉えることができます。

次に、より多くの曲を持ち歩けるようにする。曲を簡単に探せるようにする。パソコンと音楽プレーヤーを連携させる。こうした改善と改良を重ねることが、「破」に当たります。

さらに、iPod、iTunes、パソコンを一つの仕組みとしてつなぐことで、単なる携帯音楽プレーヤーの改良にとどまらず、音楽の選び方、買い方、持ち歩き方まで変えたのです。これを「離」と捉えることができます。

既存商品を参考にすることは、悪いことではありません。大切なのは、真似たままで終わらないことです。

商品を売り出すのは、少なくとも「破」から

「守」は、基本を完全に身につける段階です。師匠の教えどおりに、寸分違わず真似ます。そのためには、素直さが必要です。

しかし、師匠と同じ商品を、そのまま自分の看板商品として売り出してはいけません。

同じ商品であれば、お客さまは、実績のある師匠の店を選びます。

商品として売り出すのは、少なくとも「破」の段階からです。

地域に合わせる。お客さまに合わせる。材料を変える。工程を改善する。提供方法を変える。自分の強みを加える。こうして初めて、自店の商品になります。

さらに「離」へ進むと、お客さまがほかの商品と比較できない、新しい価値が生まれます。

無名店が独自市場をつくるための5つの注意点

無名店が独自市場をつくるためには、次の5点に注意する必要があります。

1.有名店と同じ商品で戦わない
同じ商品であれば、知名度や実績があり、口コミも多い店が有利です。

2.価格の安さで選ばれようとしない
値下げは簡単に真似されます。利益が減り、品質も人材も守れなくなります。

3.流行の材料を加えただけで、独自商品だと思わない
珍しい材料を使うだけでは、すぐに真似されます。なぜその材料を使うのか、明確な理由が必要です。

4.「守」の商品を、そのまま売らない
師匠と同じ商品を再現できても、それはまだ師匠の商品です。改善と改良を重ね、自分の店の商品に変える必要があります。

5.メニュー数を増やして、違いをつくろうとしない
商品の数が多いことと、独自性があることは別です。メニューを増やしすぎると、材料の管理、仕込み、スタッフ教育が複雑になり、品質が安定しません。

比較されない商品をつくる5段階

皆さまも、次の順序で自店の商品戦略を確認してください。

1.現在の競争相手を明確にする
お客さまが自店の商品と比較している店を、最低3店書き出します。商品、価格、量、立地、口コミ数、提供時間を比べます。

2.自店だけの資源を5つ書き出す
地域の食材。店主の経験。受け継いだ技術。生産者との関係。店を始めた理由。他店が簡単には真似できない資源を探します。

3.異なる2つ以上の要素を組み合わせる
久保社長は、ナポらー麺ではラーメン、ナポリタン、氷見の食材を組み合わせました。「氷見ツの黒」では、会場の条件を踏まえ、富山ブラックに氷見の出汁と麺を組み合わせました。一つの材料を変えるだけでなく、通常は一緒にならない要素を組み合わせます。

4.「破」の段階で数値と反応を確認する
注文率。完食率。再注文率。粗利益。提供時間。お客さまの感想。感覚だけで判断せず、改善前と改善後を比較します。

5.新しいカテゴリーに名前をつける
お客さまが、一度聞いただけで覚えられる名前にします。「ナポらー麺」という名前は、ナポリタンとラーメンの組み合わせを短い言葉で伝えています。商品名は、新しい市場をつくるための重要な戦略です。

「離」の戦略10点チェック

次の5項目を、それぞれ0点から2点で評価してください。

・他店にはない技術や食材が入っているか
・店の地域や使命と結びついているか
・お客さまが商品の特徴を一言で説明できるか
・商品名を聞くだけで違いが伝わるか
・価格ではなく、価値で選ばれているか

まったくできていない場合は0点。一部できている場合は1点。明確にできている場合は2点です。

合計が4点以下であれば、まだ既存商品のカテゴリーの中で競争しています。5点から7点であれば、「破」の段階です。8点以上であれば、「離」への道が見えています。

ただし、高得点でも、利益が残らなければ事業として続きません。

独自性と収益性の両方を、必ず確認してください。

世界麺未来戦略研究所 第6理論

「強い店は、競争に勝った店ではない。競争する必要のないカテゴリーをつくった店である」

「離」とは、奇抜な商品をつくることではありません。

基本を完全に身につける。改善と改良を繰り返す。自分の技術、地域、物語、そして市場の条件を結びつける。そして、お客さまが今まで経験したことのない価値をつくる。これが、本当の「離」です。

「守」のままでは、師匠の商品との比較になります。「破」まで進めば、自分の店の商品になります。「離」へ到達すれば、自分の店だけの市場が生まれます。

 

あなたのお店の看板商品は、有名店と同じ市場で比べられる商品でしょうか。

それとも、お客さまがほかの商品と比較できない、あなたの店だけの商品でしょうか。

大和ラーメン学校では、ラーメンづくりの基本技術だけでなく、味づくり、商品開発、店舗経営まで学ぶことができます。

基本を学ぶ「守」で終わらず、改善と改良を重ね、自店だけの市場をつくりたい方は、ぜひご覧ください。

 

世界麺未来戦略研究所からのご提案

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藤井 薫(ロッキー藤井)

株式会社大和製作所、株式会社讃匠を創業。
令和5年 秋の叙勲にて「旭日単光章」受章。

1948年5月、香川県坂出市生まれ。国立高松工業高等専門学校機械工学科卒業。川崎重工株式会社に入社し、航空機事業部機体設計課に配属。その後、独立し、1975年に大和製作所を創業。

過去48年以上にわたり、麺ビジネスを一筋に研究し麺ビジネスの最前線で繁盛店を指導。麺専門店の繁盛法則について全国各地で公演を行う。小型製麺機はベストセラーとなり、業界トップシェアを誇る。
「麺店の影の指南役」「行列の仕掛け人」として「カンブリア宮殿」「ありえへん∞世界」「スーパーJチャンネル」等、人気TV番組に出演するほか、メディアにも多数取り上げられる。
また、2000年4月にうどん学校、2004年1月にラーメン学校とそば学校を開校し、校長に就任。

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