セグメント・オブ・ワン|マーケティング新時代到来|顧客1人ひとりの心をつかむ

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はじめに

今回の記事では、マーケティングの世界で革命的な変化をもたらしている「データドリブン・マーケティング」と「セグメント・オブ・ワン」について詳しくお伝えします。

但し、これは進んだ企業だけの話ではなく、身近にわれわれの周りでも起きており、われわれ自身が企業のワン・ワン・マーケテイングの対象になっているのです。私はいつもスマートニュースを愛読していますが、スマートニュースは私が好む記事を私用にカスタマイズして、毎朝、新鮮なニュースを無料で届けてくれます。

気に入った生地を読んでいると、さらにスマートニュースはそれをデータ収納し、次回の提案に活かすのです。これが全て無料で行なわれていますが、スマートニュースはしっかりとビジネスモデルが組まれており、このようなニュースメデイアとしては、業界トップになっています。

以上の様に、デジタル技術の急速な進化により、従来の市場セグメンテーションの概念が大きく変わりつつあります。かつては夢物語だった「1人ひとりの顧客に最適化されたマーケティング」が、今や現実のものとなっているのです。

セグメント・オブ・ワンとは何か?

「セグメント・オブ・ワン」という言葉をご存知でしょうか?これは、市場をより細かく分割していった究極の形として、1人ひとりの顧客を独立したセグメントとして扱うマーケティング手法です。

従来のマーケティングでは、例えば「30代の都市部に住む女性」といった大まかなグループに向けて同じメッセージを発信していました。しかし、セグメント・オブ・ワンでは、「山田花子さん」という特定の個人の好み、行動パターン、購買履歴などに基づいて、完全にパーソナライズされたアプローチを行います。

これは、20年以上前にドン・ペパーズとマーサ・ロジャーズが提唱した「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」の概念が、ようやく技術的に実現可能になったと言えるでしょう。

なぜ今、データドリブン・マーケティングなのか?

ビッグデータの時代が到来し、企業は顧客に関する膨大なデータを収集できるようになりました。スマートフォンの普及、IoTデバイスの増加、ソーシャルメディアの発展により、かつてないほど詳細な顧客情報が利用可能になっています。

2012年には、小売大手のターゲット社が、顧客の購買パターンを分析して妊娠している可能性のある女性を特定し、適切なタイミングでベビー用品のクーポンを送るという事例がニューヨーク・タイムズで紹介され、大きな話題となりました。

ある父親が「なぜ私の10代の娘にベビー用品のクーポンを送るのか」と抗議したところ、後に娘が本当に妊娠していたことが判明したというエピソードは、データ分析の精度と可能性を示す象徴的な出来事となりました。

従来のセグメンテーションからの進化

市場セグメンテーションの歴史を振り返ると、1950年代に概念化されて以来、常に進化を続けてきました。現在、セグメンテーションには主に4つの方法があります

1. 地理的セグメンテーション

最も基本的なセグメンテーション方法で、市場を国、地域、都市、地区などの地理的要因で分けます。例えば「関東地方の顧客」や「大阪市内の消費者」といった具合です。

実行が容易である一方、同じ地域に住む人々でも購買行動や好みが大きく異なる可能性があるため、
単独では効果が限定的です。

2. 人口統計学的セグメンテーション

年齢、性別、所得、職業、社会経済階層などの要素で市場を分けます。「40代の専業主婦」や「20代前半の大学生」などのセグメントが典型的です。

地理的要因と組み合わせることで「東京在住の30代高所得サラリーマン」といったより具体的なセグメントを作ることができますが、それでもまだ粒度は粗いと言えるでしょう。

3. 心理的セグメンテーション

個人の価値観、ライフスタイル、態度、興味などに基づくセグメンテーションです。「環境意識の高い消費者」や「アドベンチャー志向の旅行者」などの分類が可能になります。

この方法は購買行動の根底にある動機を理解する上で非常に有効ですが、これらの心理的特性を正確に把握するのは容易ではありません。

4. 行動セグメンテーション

実際の購買行動や使用状況に基づくセグメンテーションです。「頻繁に購入する顧客」「季節限定の利用者」「ブランドスイッチャー」などのカテゴリーがあります。

過去の行動は将来の行動の良い予測因子となるため、このセグメンテーションは非常に有効です。しかし、リアルタイムの行動追跡が必要なため、実装が複雑になる場合があります。

ビッグデータがもたらす2つの変革

ビッグデータがもたらす2つの変革

従来のセグメンテーション手法はまだ重要ですが、ビッグデータの登場により、次の2つの重要な変革が起きています:

1. マイクロセグメンテーションから個人レベルへ

ビッグデータと高度な分析技術により、市場を極めて小さなセグメントに分け、最終的には「セグメント・オブ・ワン」、つまり個人レベルでのターゲティングが可能になりました。

各顧客に対して実際のペルソナ(顧客像)を作成し、オファーやキャンペーンを完全にカスタマイズすることができます。現代のコンピューティング能力では、何百万もの顧客プロファイルを同時に分析することが可能です。

2. 静的なセグメントから動的なセグメントへ

従来のセグメンテーションは比較的静的で、1人の顧客はすべての製品カテゴリーにわたって同じセグメントに分類されていました。しかし、ビッグデータを活用したダイナミックなセグメンテーションでは、顧客が状況によって異なるセグメントを行き来する様子をリアルタイムで追跡できます。

例えば、ある顧客がビジネス旅行ではプレミアムサービスを選び、個人旅行では予算重視の選択をするといった変化を捉えることができるのです。

データドリブン・マーケティングを構築する3ステップ

データドリブン・マーケティングを成功させるためには、次の3つのステップが重要です:

ステップ1:明確な目的を設定する

データドリブン・マーケティングの失敗の多くは、あまりにも多くの目標を一度に達成しようとすることから始まります。1つか2つの明確な目的に絞ることが極めて重要です。例えば、「顧客離反率の10%削減」や「優良顧客のライフタイムバリューの15%向上」といった具体的な目標を設定しましょう。

明確な目的があれば、どのデータが必要かを判断しやすくなり、成果の測定も容易になります。また、明確な目的は組織内の理解とサポートを得るためにも重要です。データドリブン・マーケティングというと専門的で難解に感じる人も多いため、誰もが理解できる具体的な目標を示すことで、チーム全体の協力を得やすくなります。

ステップ2:必要なデータを特定し、入手可能性を確認する

目的を明確にしたら、次は必要なデータを特定します。

現在活用できるデータは主に次の6つのカテゴリーに分類できます:

ソーシャルデータ:ソーシャルメディア上のプロフィール、投稿内容、いいね!の履歴、フォロー関係などの情報です。顧客の興味関心や価値観を把握するのに役立ちます。

メディアデータ:テレビ視聴率、ラジオ聴取率、雑誌購読情報など、伝統的なメディア接触に関するデータです。まだ多くの消費者がこれらのメディアに触れているため、重要な情報源です。

ウェブトラフィックデータ:Webサイトの訪問履歴、閲覧ページ、滞在時間、クリック行動など、オンライン上での行動記録です。顧客の興味や検討プロセスを知る手がかりになります。

POS取引データ:店舗での購入履歴、購入金額、支払方法、購入時間帯などの情報です。実際の購買行動を知る最も直接的なデータとなります。

IoTデータ:スマートウォッチ、スマート家電、センサーなどから収集される位置情報や行動データです。顧客の日常生活や使用状況についての洞察を提供します。

エンゲージメントデータ:カスタマーサービスとのやり取り、問い合わせ履歴、苦情記録などの情報です。顧客との関係性や満足度を理解するのに役立ちます。

これらのデータを目的に照らし合わせて、データマトリックスを作成しましょう。横軸に目的、縦軸にデータソースを配置し、各セルに必要なデータ項目を記入することで、データ収集計画の全体像が見えてきます。

ステップ3:統合データエコシステムを構築する

長期的なデータドリブン・マーケティングの成功には、すべてのデータソースを一元管理できる統合データエコシステムの構築が不可欠です。最大の課題は、異なるデータソース間の共通項を見つけることです。理想的には、顧客IDを用いて個々の顧客レベルでデータを統合します。

例えば、以下のような方法があります:ロイヤルティプログラムやアプリを通じて、オンラインとオフラインの行動を紐づけるGoogleやFacebook等のソーシャルログインを活用して、ソーシャルデータとWebサイト行動を連携させるビーコン技術を使って、店舗内での行動とモバイルアプリの使用を結びつけるプライバシー上の理由から個人レベルの統合が難しい場合は、特定の人口統計学的セグメント(例:「18-34歳の男性」)を共通項として使用することも1つの方法です。

すべてのデータを単一のプラットフォームに統合することで、包括的な分析が可能になり、将来的には機械学習や人工知能を活用した高度な分析へと発展させることができます。

データドリブン・マーケティングが失敗する3つの理由

多くの企業がデータドリブン・マーケティングに投資しながらも、期待した成果を得られていません。主な失敗理由は以下の3つです

1. ITプロジェクトとしての誤った位置づけ

多くの企業では、データドリブン・マーケティングがITプロジェクトとして始まることがよくあります。ソフトウェアツールの選定やインフラ投資、データサイエンティストの採用などに重点が置かれがちです。

しかし、本来はマーケティング戦略が先にあり、技術はそれを支援するものであるべきです。マーケターこそがプロジェクトの主導者となり、明確なマーケティング目標に基づいて、どのようなデータや分析が必要かを決定すべきなのです。

2. ビッグデータへの過度の依存

ビッグデータ分析ツールが、すべてのマーケティング問題を解決する万能薬であるという誤解があります。しかし、データの量が増えただけでは、必ずしも質の高い洞察は得られません。

ビッグデータは従来の市場調査(インタビュー、フォーカスグループ、ユーザビリティテストなど)の代替ではなく、補完するものです。定量的データと定性的洞察を組み合わせることで、より深い顧客理解が可能になります。

3. 過度の自動化への期待

データドリブン・マーケティングシステムが一度構築されれば、すべてが自動的に機能すると期待する企業が多いです。アルゴリズムというブラックボックスにデータを投入するだけで、質問への回答が自動的に得られると考えています。

しかし実際には、データパターンを解釈し、それをマーケティング戦略に変換するには、マーケターの経験と専門知識が不可欠です。機械が見つけたパターンに意味を与え、実際のキャンペーンやオファーに結びつけるのは、依然として人間の仕事なのです。

実践例:データドリブン・マーケティングの成功事例

ターゲット社の妊娠予測システム

冒頭で触れたターゲット社の事例は、データドリブン・マーケティングの可能性を示す象徴的な例です。同社は顧客に固有のIDを割り当て、あらゆる購買履歴と人口統計学的情報を紐づけました。ビッグデータ分析により、妊娠中の女性に特有の購買パターン(無香料ローション、特定のミネラルサプリメントの購入など)を特定し、妊娠している可能性の高い顧客を予測するアルゴリズムを開発しました。

さらに、購入タイミングから出産予定日まで予測し、適切なタイミングで関連商品のクーポンを送信していたのです。このシステムにより、ターゲット社は競合他社に先駆けて妊娠中の顧客にアプローチし、長期的な顧客関係を構築することに成功しました。

Netflixのパーソナライズド・レコメンデーション

Netflixは視聴履歴、評価データ、検索履歴などの情報を基に、ユーザー1人ひとりに合わせたコンテンツレコメンデーションを提供しています。同社の推奨アルゴリズムは、単にジャンルや俳優だけでなく、コンテンツの複数の特性(「暗い未来を描くSF」「強い女性が主役のドラマ」など)を分析し、ユーザーごとにパーソナライズされたカテゴリーを生成します。

さらに、サムネイル画像さえもユーザーの好みに合わせて最適化されており、同じ作品でも異なるユーザーには異なる画像が表示されることがあります。この高度なパーソナライゼーションにより、Netflixは高い顧客維持率を達成しています。

データドリブン・マーケティングの未来

データドリブン・マーケティングとセグメント・オブ・ワンは、さらに進化を続けるでしょう。今後注目される動向としては人工知能と機械学習の進化AIと機械学習の発展により、データ分析はさらに高度に、かつ自動化されていきます。予測モデルの精度が向上し、顧客の次の行動や潜在的なニーズをより正確に予測できるようになるでしょう。

リアルタイム分析とエンゲージメント

データ処理速度の向上により、顧客の行動に対してリアルタイムで反応することが可能になります。店舗内での行動に即座に対応したり、Webサイト上での迷いに対して適切な提案をしたりできるようになるでしょう。

プライバシーとの均衡

データ活用とプライバシー保護のバランスがますます重要になります。規制の強化(GDPR、CCPA等)に対応しつつ、顧客データを有効活用する「プライバシーバイデザイン」の考え方が普及するでしょう。

まとめ:最後に重要なこと

データドリブン・マーケティングとセグメント・オブ・ワンは、マーケティングの未来を形作る強力なアプローチです。しかし、成功のために覚えておくべきいくつかのポイントがあります

データはあくまで手段であり、目的ではない:最終的な目標は顧客満足度向上と事業成長です。データ収集自体が目的にならないようにしましょう。人間的な要素を忘れない:いくら精緻な分析ができても、共感や創造性といった人間的な要素はAIにはまだ真似できません。

データと人間の洞察をバランスよく組み合わせましょう。段階的に進める:いきなり完璧なシステムを目指すのではなく、小さな成功を積み重ねていくアプローチが効果的です。最初は単一のマーケティング目標に焦点を当て、成功体験を組織内で共有しましょう。チーム全体の理解と協力が不可欠:データドリブン・マーケティングは、マーケティング部門だけでなく、IT、営業、カスタマーサービスなど、組織全体の協力が必要です。

共通の目標と言語を持ち、部門間の壁を取り払うことが成功の鍵です。データを活用した1人ひとりの顧客に向けたマーケティングは、もはや夢物語ではありません。適切なアプローチと段階的な実装により、あらゆる規模の企業が「セグメント・オブ・ワン」の恩恵を受けることができるのです。

最後に

今週は、先週の内容よりも身近になり、今週の内容も多くの企業では、実証済になっているものが、たくさん出ています。最近、私が感じるのは、さまざまなテクノロジーを企業が採用する速度の速さです。セルフレジも多くのスーパー他、量販店では既に当たり前になり、セルフレジだけの店も当たりまえになっています。

更に、今回のターゲットの事例の様に、購買のビッグデータからAI分析で、お客さまの1人ひとりの生活の詳細まで分析し、最適な提案を行なえる様になっています。飲食店においても同様で、顧客データをキチンと管理している会社とそうでない会社は、今後、生産性だけでなく、顧客満足度向上で大きな差が付いてきます。

従って、ビジネスにAIを最大限活用することが、あらゆる企業で優劣を決める重要なカギになります。私も日々、AIのお世話になっていますが、AIはますます賢くなっていることを実感します。次週のマーケティング5.0のテーマは、データ・ドリブン・マーケテイングです。

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藤井 薫(ロッキー藤井)

株式会社大和製作所、株式会社讃匠を創業。
令和5年 秋の叙勲にて「旭日単光章」受章。

1948年5月、香川県坂出市生まれ。国立高松工業高等専門学校機械工学科卒業。川崎重工株式会社に入社し、航空機事業部機体設計課に配属。その後、独立し、1975年に大和製作所を創業。

過去48年以上にわたり、麺ビジネスを一筋に研究し麺ビジネスの最前線で繁盛店を指導。麺専門店の繁盛法則について全国各地で公演を行う。小型製麺機はベストセラーとなり、業界トップシェアを誇る。
「麺店の影の指南役」「行列の仕掛け人」として「カンブリア宮殿」「ありえへん∞世界」「スーパーJチャンネル」等、人気TV番組に出演するほか、メディアにも多数取り上げられる。
また、2000年4月にうどん学校、2004年1月にラーメン学校とそば学校を開校し、校長に就任。

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