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はじめに
実は、初期のAIが第2次世界大戦での連合軍の勝利に貢献したことは、ほとんどの人々が知らない、ビックリする事実です。AIの出現は、最近だと思っていましたが、実は第2次世界大戦に出現していたのです。
しかし、その頃は軍事技術として、特殊な人々だけのものでした。これは初期のインターネットも全く同様で、軍事技術で培われた先端技術が、民間に使われ、われわれの生活に大きな影響を与えているのです。このようなテクノロジーは企業に魔法のような力を与え、企業がかつては不可能だったことを行えるように出来るのです。
ネクスト・テクノロジー次の10年に主流になる技術は、マーケティング5・0の基盤になり、ネクスト・テクノロジーは企業を過去のビジネスの限界から解放し、ヒューマンエラーを発生させやすい退屈な反復作業を自動化します。
通信技術の助けによって、企業は地理的障害を乗り越え、ブロックチェーンの利用は、金融サービス産業など、データの慎重な扱いが求められる産業でセキュリティを向上させ、ロボティクスやモノのインターネット(IoT)の利用は高リスク環境における人的資源の必要性を低下させるのです。
だが、もっとも重要な点は、ネクスト・テクノロジーが人間中心のマーケティング・アプローチを可能にすることです。拡張された仮想現実(VR)、すなわち複合現実(MR)は、たとえば不動産部門で、企業がオファリングを視覚化して顧客に見せることを可能にし、センサーやAIは、顔認識機能搭載の広告掲示板などで、コンテンツのパーソナル化を可能にします。
利用可能になったネクスト・テクノロジー

ネクスト・テクノロジーの多くが、実は、半世紀以上前に発明されたものであったのです。たとえば、AIや自然言語処理(NLP)やプログラマブル・ロボティクスは、すべて1950年代から存在していました。顔認識に関する最初の研究は1960年代に始まったのですが、これらの技術はなぜ、近年ようやく台頭してきたのかの理由は、イネーブリング・テクノロジーにあるのです。
これまで、イネーブリング・テクノロジーが今日ほど強力ではなかったので、実現出来なかったのです。以前のコンピューターは今日のものほど強力ではなかったし、データ記憶装置はかさばっていて高価だったのです。
ネクスト・テクノロジーの台頭は、コンピューターの処理能力、オープンソース・ソフトウェア、インターネット、クラウドコンピューティング、モバイル機器、ビッグデータという6つのイネーブラーの成熟によって、初めて可能になったのです【図6―1】。
コンピューターの処理能力
テクノロジーは高度になるにつれて、より強力で、しかもコスト効率のよいハードウェアを要求し、コンピューターの処理能力、とりわけ高効率のGPU〈画像処理装置〉の飛躍的な向上により、人工知能など、莫大な処理能力を必要とする技術を操作できるようになりました。
半導体技術の進歩と半導体チップのサイズの縮小は、処理能力の向上とエネルギー消費量の減少を意味しているのです。これによって小型でローカルなAIマシンを実現でき、自動運転車やロボットなど、リアルタイムの反応が必要なアプリケーションを動かせるようになったのです
オープンソース・ソフトウェア
強力なハードウェアを動かすためには、同様に強力なソフトウェアシステムが求められ、AIのためのソフトウェアを構築するには、通常何年もの開発期間が必要です。
ここで、オープンソース・ソフトウェアが開発プロセスを加速する上で重要な役割を果たし、マイクロソフト、グーグル、フェイスブック〈現メタ〉、アマゾン、IBMなどの大企業は、協働という方法を採用して、自社のAI研究やAIアルゴリズムをオープンソース化してきました。
これは世界中の開発者コミュニティによるシステムの迅速な改良、強化に繫がり、同様のオープンソースモデルは、ロボティクス、ブロックチェーン、IoTでも利用されているのです。私が現在、この文章を書けているのも、オープン・ソースとしてのマイクロソフトのOSのお陰です。
インターネット
これまでに発明されたもっとも革新的な技術は、おそらくインターネットで、FTTH〈ファイバー・トゥ・ザ・ホーム、すなわち高速通信が可能な光ファイバーを各家庭まで引き込むこと〉と5G無線技術のネットワーク・コンバージェンス〈複数の通信モードを1つのネットワークで使用すること〉は、インターネット帯域幅に対する増大しつつあるニーズを満たすのです。
インターネットは、何十億もの人々はもちろんマシンも接続し、また、IoTやブロックチェーンなどのネットワーキング関連技術の基盤でもあり、拡張現実(AR)、VR、音声アシスタントなどのインタラクティブ技術も、うまく機能するためにはネットワークの遅延が小さいことが必須条件なので、高速インターネットに大きく依存しています。
クラウドコンピューティング
もう1つの重要なイネーブラーはクラウドコンピューティングで、これはコンピューターシステム、とりわけウェブ上のソフトウェアやストレージを共同利用することで、ユーザーが遠隔で作業できるようにする仕組みです。
COVID-19の世界的大流行、及びそれが強いるリモートワークによって、クラウドコンピューティングは企業にとってより一層重要になっており、クラウドコンピューティングを利用する企業は、AIなどの複雑なアプリケーションを動かすために高価なハードウェアやソフトウェアに投資する必要がないのです。
そのような投資をする代わりに、クラウドサービス・プロバイダーに会員登録し、プロバイダーによって提供される共用インフラを利用することが出来、そうすることで、企業は自社のニーズが増大するにつれて利用するサービスを拡大するという柔軟性を確保できるのです。
また、プロバイダーが度々インフラをアップデートしてくれるので、企業は最新の技術についていかなければと思い煩う必要がなく、AIの5大プレーヤー、すなわちアマゾン、マイクロソフト、グーグル、アリババ、IBMは、クラウドコンピューティングの市場も支配しています。
モバイル機器
分散コンピューティングというトレンドは、モバイル機器の発達によって可能になり、モバイル・コンピューティングの発達はめざましく、最高仕様のスマートフォンは今ではPCと同等の性能を持ち、ほとんどの人にとってコンピューティングやインターネット接続のためのおもなデバイスになっています。
デバイスの携帯は移動中のユーザーに力を与え、移動中の生産性を向上させ、また、顧客体験(CX)の分散提供を可能にしました。
今日のスマートフォンは、顔認識、音声アシスタント、AR、VR、さらには3D印刷のアプリケーションまで動かせるほど強力なのです。
ビッグデータ
ビッグデータはパズルの最後のピースの役目を果たし、AI技術はマシンに学習させ、アルゴリズムを改良するために、大量かつ多様なデータを必要とします。
とくにモバイル機器によるウェブブラウザーや、Eメール、ソーシャル・メディア、メッセージアプリなどの日々の利用が、そうしたデータを提供し、心理学的パターンや行動学的パターンを提供する外部データは、社内の取引データを補完してくれるのです。
インターネットベースのデータの素晴らしい点は、従来型の市場調査のデータとは異なり、オンラインで、リアルタイムで、大規模に集められることです。そのうえ、データストレージのコストは低下しており、容量は急速に拡大していて、大量の情報を容易に管理できるようになっています。
互いに関連しているこれら6つの技術のアベイラビリティ〈入手しやすさ〉とアフォーダビリティ〈手頃な価格であること〉は、大学や企業の研究所が次のフロンティアを探検する後押しをしています。これまで眠っていた先進技術は、成熟と大規模な導入の段階へと前進できるのです。
ネクスト・テクノロジーでビジネスを再構築する
ここで、人類とAIの違いについて、触れていきます。人間は比類ない認知能力に恵まれた独自の存在であり、われわれは難しい決定を下したり、複雑な問題を解決したりすることができるのですが、もっとも重要な点は、われわれが経験から学習できることなのです。
われわれの脳がどのような方法で認知スキルを発達させるかというと、それは文脈学習によってであり、つまり、知識を獲得し、自分自身の生活経験に基づいて関連性を見つけ出して、自分の全体的な物の見方を発達させるのです。
人間の学習の仕方は途方もなく複雑でもある。人間は五感のすべてから刺激を受け、われわれは言葉や視覚的手がかりを使って教えたり学んだりします。われわれの世界認識は、触れたり嗅いだり味わったりすることによって強化され、たとえば書いたり、歩いたり、他の運動技能を発揮したりできるように、精神運動訓練も受け、こうした学習全体が生涯続くのです。
その結果として、人間は環境刺激に基づいてコミュニケーションをとったり、感知したり、行動したりすることができるのです。科学者や技術者は長年、人間の能力をマシンで再現することに取り組んできており、AIの機械学習は文脈学習の手法を模倣しようとしているるのです。
AIエンジンは独力で学習するようには設計されていないので、人間と同じく、アルゴリズムを使って何を学習するべきかについて訓練されなければならないのです。AIエンジンは文脈としての役目を果たすビッグデータから関連性を見つけ出し、最終的に、アルゴリズムを「理解」して、データの意味を完全に解明することができるのです。
センサーは人間の感覚を模倣することによって学習を手助けする役割を果たします。たとえば顔認識や画像認識は、人間が使う視覚学習モデルに基づいてマシンが対象を識別する手助けをし、そのうえ、コンピューターの認知スキルは、コンピューターが、NLPで社会的コミュニケーションを模倣することや、ロボティクスで物理的運動を行うことを可能にします。
しかし、マシンはまだ人間レベルの意識や技巧は持ち合わせていませんが、人間より優れた耐久性と信頼性を備えており、大量の知識を短期間で学習することができます。
しかし、人間の独自性は認知能力や学習能力だけではなく、人間は倫理、文化、愛など、物理的な形も持たない抽象概念を理解することができるのです。論理的思考を超えたこの想像能力が、人間をマシンよりクリエイティブにし、また、この能力は時として人間を合理性から逸脱させるのです。
それに、人間は極めて社会的です。

われわれは集団をつくったり他者と関係を築いたりすることが本能的に好きなのです。マシンは人間の能力のこうした面についても訓練されていて、たとえばARやVRは、2つの異なる現実オンラインの現実とオフラインの現実を重ね合わせることによって、人間の想像力を模倣しようとするのです。
また、IoTやブロックチェーンの開発は、マシンが互いにどのように「付き合う」べきかの概念化を推し進めてくれます。われわれはこれらの先進技術AI、NLP、センサー技術、ロボティクス、MR、IoT、ブロックチェーンをネクスト・テクノロジーと呼びます。
これらの技術は、人間の能力を再現することで次世代のマーケティングに力を与えるのです【図6―2】。
人工知能(AI)
AIは、おそらく近年もっとももてはやされていながら、もっとも理解されていない技術で、SF映画に見られるように、われわれがAIを人間レベルのものとして思い描くと、AIは脅威を与える存在になり、このような形のAIは汎用人工知能(AGI)と呼ばれています。
AGIは人間レベルの意識を持つが、開発にはまだ少なくとも20年はかかりますが、AIはそれほど高度である必要はないのです。AIの狭い範囲の応用はすでに一般的になっており、いくつかの産業でルーティン作業を自動化するために広く使われています。
金融サービス会社は、不正の検知や信用スコアの算出を自動化するためにAIを使っていて、グーグルはAIを使って、ユーザーが検索バーに1文字打ち込むたびに検索ワードが推奨されるようにしています。アマゾンはおすすめの本を表示するために、またウーバーはダイナミック・プライシングの設定を行うためにAIを利用しているのです。
狭い範囲の応用では、かつては人間の知能が必要だった特定の業務を、AIがコンピューター・アルゴリズムを使って遂行します。コンピューターの学習の仕方は、教師あり学習か、教師なし学習のどちらかで、教師あり学習では、人間のプログラマーが入出力フォーマットか「if-then(もし~なら、その場合は)」フォーマットでアルゴリズムをマッピングします。
この初期の形はエキスパート・システムと呼ばれ、主として顧客サービス用チャットボットに使われています。単純なチャットボットとやり取りするときは、顧客はあらかじめ決められたリストの質問しかできないのです。
規格化された反復的な業務プロセスを持つ企業は、エキスパートシステムを使って自動化することが考えられる。教師なし学習を行うAIの場合、コンピューターは最小限の人間の関与で過去の履歴データを読み込むので、それまで知られていなかったパターンを学習したり、発見したり、構造化されていないデータを分析して、構造化された情報に変換します。
マーケティング分野での応用はたくさんあり、もっとも重要な応用の1つは、ビッグデータを解釈し、知見を引き出すことです。AIはソーシャル・メディアの投稿、取引履歴、その他の行動データから顧客をグループ分けすることができ、データに基づく市場セグメンテーションやターゲティングを行うことを可能にします。
これは企業が製品推奨や価格設定やコンテンツ・マーケティング・キャンペーンを行う際、カスタム化やパーソナル化を実現するための基盤になります。顧客がこれらのオファリングに反応するにつれて、コンピューターは学習し続け、アルゴリズムを修正し続けるのです。
AGIはまだ利用可能ではないが、企業における統合AIは可能です。オンライン決済のアリペイの親会社で、アリババの関連会社であるアント・フィナンシャルを例にとってみれば、AIや他の支援技術を使って、決済セキュリティ、金融アドバイザリー、融資承認、保険金請求処理、顧客サービス、リスク管理など、自社の中核的なビジネスプロセスをすべて自動化しています。
また、画像認識や機械学習を使って、自動車保険を再構築しているのです。顧客はスマートフォンの写真で自動車保険の保険金請求を行うことができ、AIエンジンが画像を分析して請求が正当かどうかを判定するのです。
AIは自動化の頭脳にすぎない。
次世代の顧客体験を提供するためには、ロボティクス、顔認識、音声技術、センサーなど、他の技術と連携させる必要があり、かつてはコンピューティングの研究機関で扱われるものだったのですが、AIは今では顧客の日常生活に深く広く入り込んでいます。
AIは価値を生み出しますが、慎重に運用されなければならず、人間の選好や過去の決定から生じるバイアスがAIアルゴリズムに忍び込むかもしれないし、包摂的な開発がなければ、AIは所得格差の拡大をもたらすかもしれないのです。
自然言語処理(NLP)
もう1つのワクワクする発展はNLPの分野で見られ、NLPはマシンに人間のコミュニケーションの仕方を再現させようとするもので、書き言葉と話し言葉の両方を対象にしています。
NLPはAIの発展、とりわけ音声アシスタントなどの言語入力を必要とするAIの発展における極めて重要な側面であり、人間の言語は得てして曖昧で、複雑で、しかも重層的なので、NLPは難しい離れ業でもあります。マシンに言語のニュアンスを教えるためには、本物の会話の書き起こしやビデオ録画が大量に必要です。
NLPの応用でもっとも普及しているのはチャットボットで、サービス部門のためにはもちろん、販売部門のためにも活用されています。チャットボットの導入によって、インバウンドのコールセンターやアウトバウンドのテレマーケティングなど、より高コストチャネルの必要性を引き下げることができ、とくに低所得層の顧客では、使わずに済むようになります。
リフト、セフォラ、スターバックスのような企業は、すでに注文取りや顧客とのインタラクションにチャットボットを使っています。B2Bの分野では、ハブスポットやラピッドマイナーのような企業が、見込み客全般を絞り込んで、有望な見込み客を適切なフォローアップ・チャネルに向かわせるためにチャットボットを利用しています。
ワッツアップ、フェイスブック、メッセンジャー、ウィーチャットなどのオンライン・メッセージング・プラットフォームの普及が、チャットボットの利用が拡大したおもな理由です。同じ理由で、人々は他の人々とおしゃべりするのと同じように、チャットボットとコミュニケーションをとれることを期待しているので、NLPは極めて重要なのです。
選択回答形式の質問にしか応えられない単純なチャットボットとは異なり、NLP搭載のチャットボットは任意の質問を解釈して、それに回答することができるのです。また、タイプミスやスラングや略語などのノイズを含むチャットメッセージでも理解することができ、強力なチャットボットは感情も理解でき、たとえば皮肉を含んだ発言をそれと察知すると、また、文脈を理解して、曖昧な表現の意図された意味も推測できるのです。
音声技術のおかげで、マシンは口頭コマンドに適切に反応することもできるようになっていて、アマゾンのアレクサ、アップルのSiri、グーグルのグーグルアシスタント、マイクロソフトのコルタナなど、利用可能な音声アシスタントはたくさんあります。
これらのアプリケーションは、すでに複数の言語で簡単な質問に答えたり、コマンドを実行したりすることができます。2018年のグーグルI/O(開発者向け会議)でのグーグルデュプレックスのデモンストレーションは、バーチャルアシスタントが自然な会話をどれほどスムーズに行えるかを実証しました。
美容院やレストランに予約の電話を入れると、音声アシスタントがロボット口調を捨て、間や繫ぎ言葉を加えることまでして、かつてないほどリアルな会話をするのです。このような最近の発展により、ますます多くの顧客が音声アシスタントを通して調査や買い物をするようになっていて、音声アシスタントは製品を比較し、過去の購入決定に基づいて買うべきブランドについて推奨しています。
過去に購入した製品が多ければ多いほど、推奨は正確になり、このまったく新しい買い物の仕方の先をブランドが行くためには、自力でビッグデータを集めて、ユーザーの選好を反映している購入アルゴリズムを理解しなければならないのです。
センサー技術
テキスト認識や音声認識のほかに、コンピューターは画像認識や顔認識からも学習することができ、ソーシャル・メディアの時代における写真や自撮りの人気の高まりは、このトレンドを促進します。
簡単に言うと、画像認識が行うのは、画像をスキャンして、ウェブ上やデータベース上で類似したものを探すことです。主要検索エンジンのグーグルは、人々が画像を使って検索を行える画像認識能力を開発し、画像認識の応用の仕方はたくさんあり、たとえば、企業はソーシャル・メディア上の何百万件もの投稿から自社のブランドを購入、消費している人々の写真をスキャンして、礼状を送ることができるのです。
競合ブランドを使っている人々を特定して、彼らにスイッチングを勧めることもでき、ターゲットをしっかり絞ったこの広告は、市場シェアを拡大する極めて効率的な方法になります。
イギリスのテスコは、自社のプラノグラム、すなわち購入促進のために製品をどのように棚に陳列するかという棚割りを改良するために、画像認識センサーを大々的に使用しています。ロボットを使って陳列棚の製品の写真を撮らせ、その画像を分析させて、在庫切れや陳列ミスを見つけているのです。
画像認識能力は顧客体験の向上にも役立つ。
たとえば、顧客が棚の製品をスキャンすれば、その製品に関する詳しい情報がAIエンジンから送られてくるという使い方が考えられ、テスコはアルコールやタバコの購入者の年齢を確認するために、チェックアウトカウンターに顔認識カメラを配備することも計画しています。
こうすることで、人間のレジ係を置かないセルフチェックアウトが可能になるのです。顔認識ソフトウェアのもう1つの使用例は、電子看板で、オーディエンスの人口統計学的プロフィールや感情の状態を識別することは、広告主が適切なコンテンツを提供する助けになります。
コンテンツに対する表情反応をとらえることは、広告主が広告を改良する助けにもなります。センサーが広く使用されているもう1つの分野は自動運転車で、グーグルの関連会社、ウェイモのようなテクノロジー企業は、GMクルーズ、フォード・オートノマス、アルゴAIのような自動車メーカー系の企業と、この分野で競争しています。
自動運転車はセンサーに大きく依存しており、AIに周囲の状況の理解を与えています。通常、車両の異なる部分に設置された4種類のセンサーカメラ、レーダー、超音波、ライダー〈光を使ったリモートセンサー〉──を使って、距離を測定し、車線を識別し、周囲の他の車両を検知しているのです。
車両には、安全性を高め、車両管理を支援するために、センサーを含むテレマティクス・システム〈車両に搭載したカーナビなどの機器を、通信システムを利用してインターネットに接続し、さまざまな情報を管理したり、関連サービスを提供したりするシステム〉も搭載されています。
これはロジスティクスとサプライチェーンの最適化にとくに有効で、無人車両をモニターして、GPSパターンや走行時間や走行距離、それに燃費性能について、毎日、知見を得ることができます。さらに重要な点として、車両の修理が必要なときは、それを知らせるメッセージを受け取ることができ、プログレッシブやGEICOガイコのような保険会社も、掛金の割引を提供する使用量ベースの保険プログラムのためにテレマティクスを利用しています。
自動車関連で、最近、当たり前になっている進化は、駐車場の料金システムで、駐車場に進入時にナンバープレートの画像を撮り、出庫する時にナンバープレートの番号で、金額が表示され、料金を支払う仕組みです。従って、以前と違い、駐車場の位置番号の記憶等は不要になっています。
ロボティクス
工業国の大企業は1960年代から、主としてバックエンドの自動化のためにロボットを使ってきており、自動化ロボットは労働集約型産業である製造業で最大のコスト削減効果を示したのです。
ロボットのコストが賃金を下回るレベルまで低下した近年は、AIの進歩は産業用ロボットが対処できる作業の幅を拡大しました。それは生産性の向上に繫がるロボットの耐久性や労働時間の柔軟性とあいまって、企業が自動化する強力な論理的根拠になっています。
近年、企業はマーケティングの一環として、顧客対応インターフェースで人間の代わりにロボットを使おうとしてきました。日本は人口の高齢化と移民をあまり受け入れないこともあり、ロボットに関しては積極的に突き進み、先頭に立っています。
トヨタやホンダのような日本の自動車メーカーは、高齢者を支援するためのケアボットに投資しており、ソフトバンクのロボット、ペッパーは老人ホームでは話し相手になり、小売店では店員になり、ネスレ日本も、コーヒーを淹れ、販売し、給仕するためにロボットを使っています。
しかし、ロボティクスのもっとも大胆な実験の1つは、人間の役割が極めて重要なホスピタリティ部門における利用です。目的は、ロボットを使うことでスタッフを単純作業から解放し、スタッフがよりパーソナライズされたサービスを提供できるようにすることです。
バージニア州のヒルトン・ホテルは、コニーというロボット・コンシェルジュを試験的に導入したのですが、IBMのAI「ワトソン」を搭載したコニーは、ホテルのゲストに近隣の観光名所やレストランを推奨することができるのです。
カリフォルニア州クパチーノのアロフト・ホテルは、ボトラーという名のロボット執事バトラーを導入し、ボトラーはアメニティやルームサービスをゲストに届け、ゲストに「#MeetBotlr」とツイートしてもらうことでチップを受け取るのです。ホテルは調理にもロボットを使い始めており、たとえばシンガポールのスタジオM・ホテルは、ロボットのシェフにオムレツをつくらせています。
われわれは概して人間に似た形を思い浮かべるが、ロボティクスは物理的なロボットだけを意味しておらず、拡大しつつあるトレンド、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)は、ソフトウェアロボティクスを用いていて、RPAでは、仮想ロボットが明確なガイドラインに従って、人間が行うようにコンピューター作業を行うのです。
大量の反復作業を自動化して、企業はミスの余地をなくすためにRPAを使っており、RPAは請求や支払など、バックオフィスの財務管理にもよく使われています。新人研修や給与処理などの人的資源管理も自動化することができ、RPAは販売分野でも活用でき、CRMは、もっとも一般的な使用例の1つです。販売チームは名刺や紙の集計レポートを簡単にデジタル・フォーマットに変換して、それをCRMシステムに保管することができます。
RPAは見込み客に対するEメールを自動化するのにも役立ち、マーケティングの分野では、RPAは主としてプログラマティック広告最適な結果が得られるようにデジタル広告枠の入札、買付を自動的に行う仕組みに使われています。オンライン広告予算の割合が上昇しているので、RPAの利用はさらに拡大しつつあるのです。
複合現実(MR)
3次元ユーザー・インターフェースのイノベーションでは、ARとVR、すなわちMRが、もっとも有望なものの1つとして注目を集めており、物理的世界とデジタル世界の境界をぼやけさせています。
MRの目的は人間の想像力を模倣することなので、現在の応用は主としてエンターテインメントとゲームに集中しています。しかし、一部のブランドは、顧客体験を強化するためにMRに投資しており、ARでは、ユーザーが目にしている実世界環境に、インタラクティブなデジタル・コンテンツが重ね合わされて表示されるのです。「ポケモンGO」は、ARを使ったモバイルゲームのよく知られた例であり、このゲームでは、モバイル画面を通じて見ると、想像上の生き物がわれわれの近くにいるように見えるのです。
重ね合わせるデジタル・コンテンツの種類は年月とともに進化し、当初は主として画像と音声だったが、今では触覚フィードバックや香りも可能になっています。VRはある意味でARの逆で、ARはデジタルの物体を実世界に持ち込むようなものですが、それに対しVRはユーザーをデジタルの世界に連れていくようなものです。
VRは通常ユーザーの視界を、現実世界を模したデジタル環境で置き換え、ユーザーはヘッドセットを着けることで、ジェットコースターに乗ったり、エイリアンを撃ったりする体験ができます。ヘッドセットには、オキュラスリフト〈2021年製造終了。オキュラスクエストが後継〉のような専用ヘッドセットもあれば、グーグルカードボードのようなスマートフォンを利用するものもあります。
ソニーや任天堂の家庭用ゲーム機も、拡張機能としてVRデバイスを提供しています。デジタル世界と現実世界を融合させる能力は、マーケティングにおけるゲームチェンジャーであり、この能力は人の心を摑むコンテンツ・マーケティングに無限の可能性をもたらすのは、主としてMRがビデオゲームに起源を持つからです。MRとは、「Mixed Reality(複合現実)」の略で、現実世界と仮想世界を融合させる技術を指します。
MRの活用によって、企業は自社製品に追加の情報やストーリーを楽しくワクワクするような形で埋め込むことができる。顧客のほうは、自分が製品を見ているところだけでなく、使っているところを視覚化することができるので、ある意味で、顧客は購入を決める前から製品を「消費」できるのです。観光部門では、人々に実際の目的地への訪問を促すために、MRを使ってバーチャルツアーを提供しています。
たとえばルーブル美術館は、HTCのVRヘッドセット「バイブ」を装着したユーザーに、「モナリザ」を至近距離から見るだけでなく、この絵の背後にあるストーリーを知ることもできるバーチャル体験を提供しているのです。小売企業は製品のバーチャル試用を可能にしたり、個別解説を提供したりするためにMRを使っています。
たとえばイケアは、自社製品の3D画像を作成し、ARを使って潜在的買い手が家具を自分の家に置いたらどうなるかを視覚化できるようにしており、アメリカのホームセンター大手のロウズはVRを使って、DIYによる自宅のリフォームについてユーザーに段階的な指導を提供しています。
自動車産業では、ARはメルセデス・ベンツやトヨタやシボレーによって、フロントガラスに情報を表示するヘッドアップ・ディスプレイという形で広く使われています。ランドローバーはヘッドアップ・ディスプレイのアイデアを拡張して、前方の地形の全体像をフロントガラスに表示し、ボンネットが透明であるかのような錯覚を生み出しています。
シューズブランドのトムスは、VRがマーケティングのためだけでなく社会的インパクトを生み出すためにも使われている好例で、同社は靴が一足売れるたびに一足寄付するという方針でよく知られており、トムスはVRを使って、困っている子どもに靴を贈るとはどういうことかを顧客が体験できるようにしているのです。
モノのインターネット(IoT)とブロックチェーン
IoTとは、互いにコミュニケーションがとれるマシンとデバイスの相互接続性のこと言い、接続されているデバイスの例としては、携帯電話、ウェアラブル端末、家電、自動車、スマート電気メーター、監視カメラなどがあり、建物や車両などの資産の遠隔監視や追跡にもIoTを使うことができますが、もっとも重要な点は、IoTによってシームレスな顧客体験が提供できることです。
今ではあらゆる物理的タッチポイントがIoTによってデジタルに接続されているので、摩擦のない顧客体験が実現でき、ディズニーはその好例です。同社のテーマパークはIoTを使って摩擦をなくし、パークでの顧客体験をまったく新しいものにしています。
ディズニーのブレスレット、マジックバンドは、「マイ・ディズニー・エクスペリエンス」というウェブサイトと統合されて顧客情報を保管しており、テーマパークのチケット、ルームキー、支払手段として機能します。マジックバンドは無線周波数技術によって、乗り物、レストラン、ショップ、ホテルの何千ものセンサーと継続的にコミュニケーションをとっているのです。ディズニーのスタッフは顧客の動きをモニターし、半径40フィート〈約12メートル〉以内にいる次のゲストを予測し、これらのゲストに積極的に対応することができるのです。
何も言わなくてもファーストネームで呼んでもらい、親しく出迎えてもらえるのは、想像するだけでもワクワクします。ゲストの動きに関する収集データは、位置情報に基づいたサービスなどを設計したり、ゲストの好みの乗り物までのもっとも効率的なルートを推奨したりするのに役立つのです。
ブロックチェーンは別の形の分散型テクノロジーであり、公開分散型台帳システムであるブロックチェーンは、暗号化されたデータをピア・ツー・ピア・ネットワークで記録するのです。1つのブロックは過去のすべての取り引きを記録した台帳の1ページのようなもので、1つのブロックが完了したら、そのブロックは決して変更できず、チェーンの次のブロックに移行します。
ブロックチェーンの安全性は、仲介者としての銀行を抜きにした取り引きを可能にし、中央銀行を必要とせずに暗号通貨ビットコインを創出することも可能にします。取引記録が安全かつ透明な形で保管されるというブロックチェーンの性質は、マーケティングにとってゲームチェンジャーになる可能性があるのです。
IBMはユニリーバと協働して、デジタル広告の掲載の透明性を高めるためのブロックチェーン・プロジェクトを開始しました。全米広告主協会は、デジタル・メディアの広告料金は1ドルにつき30~40セントしかパブリッシャーのものになっておらず、残りは仲介者の懐に入っていると推定しています。ブロックチェーンは広告主からパブリッシャーまでのこの取り引きの連鎖を追跡し、非効率的な箇所を特定するために使われるのです。
ブロックチェーンの応用によって、「フェアトレード」とか「100パーセント・オーガニック」といった宣伝文句が正確かどうかを、顧客はサプライチェーンの取引記録によって確かめることもできるのです。ブロックチェーン技術のもう1つの応用分野は顧客データ管理で、今日、顧客データはいくつもの企業やブランドに分散しています。
たとえば、1人の顧客が何十種類ものロイヤルティ・プログラムに参加し、いくつもの企業やブランドに個人情報を伝え、あちこちに分散しているため、顧客が意味のあるポイント数になるほどポイントを集めるのは難しいのです。ブロックチェーンは、複数のロイヤルティ・プログラムを統合し、同時にそこに含まれる取引摩擦を軽減できる可能性があるのです。
まとめ人間のようなテクノロジーが離陸する時
ネクスト・テクノロジーは何十年も前から開発されてきましたが、少々休眠状態にあったのですが、次の10年でついに離陸するはずです。
強力なコンピューター処理能力、オープンソース・ソフトウェア、高速インターネット、クラウドコンピューティング、モバイル機器の普及、それにビッグデータと、あらゆる基盤がそろって来ているのがその理由です。先進的なテクノロジーは、人間の極めて文脈的な学習の仕方を模倣しようとし、われわれ人間は、誕生以来、周囲の環境を把握し、他者とコミュニケーションをとるように訓練されてきました。生活経験は、世界の仕組みに関するわれわれの総合的な認知的理解を豊かにし、それが機械学習の基盤になり、AIのための下地をつくるのです。
コンピューターはセンサーやNLPで同様に訓練されており、ビッグデータは「生活経験」の拡張を提供するのです。マシンはARやVRで人間の想像力を模倣しようとし、IoTやブロックチェーンで人間の社会的関係を再現しようとしているので、ネクスト・テクノロジーをマーケティングに応用することは極めて重要になって来ています。
AIを活用することで、企業はリアルタイムの市場調査を行い、それによって迅速なパーソナル化を大規模に実行できるのです。ネクスト・テクノロジーの文脈的性格は、状況の変化に適応できる顧客体験を可能にし、マーケターはコンテンツやオファリングやインタラクションを、顧客の現在の感情に合わせて調整することができるのです。
さらに、分散コンピューティング能力によって、サービスの提供は要求された時点でリアルタイムで行われるようになります。
考えるべき問い▼
□自社は今日どのネクスト・テクノロジーを導入しているか?
自社の使用例にはどのようなものがあるか?
□自社の次の5年間のテクノロジー・ロードマップについて考えたことがあるか?
どのような機会があり、どのような課題があるか?
さいごに
今週も超難解な文章に最期までお付き合いいただき、ありがとうございます。
今回のテーマであるネクスト・テクノロジーは、既にわれわれの周りで、上記の駐車場の話の様に、徐々に当たり前になってきているのです。例えば、私はスマート・ニュースから日々、新しい情報を吸い上げていますが、私のスマート・ニュースは私用にカスタマイズされていて、私が好みそうな情報、私の地元に関する情報が、毎朝、大量に届けられています。スマート・ニュースから日々届けられる新しい情報は、私の知識をアップデートするのに、どれほど役立っているか分かりません。
国内のニュースサイトでは、スマートニュースが人気ナンバーワンになった理由が非常に良く分かります。この様に、そのようなジャンルであろうと、ネクスト・テクノロジーをいかに早く採用し、使いこなすかが、これからのビジネスのジャンルで、ナンバーワンになり、勝ち残ることが出来る唯一の戦略になることでしょう。
これからも皆さんと一緒にこのような、新しいビジネス環境に置いて、欠くことの出来ない情報を共有します。
次のテーマは、マーケティング5.0、新しい顧客体験です