客数を失わない価格戦略。周辺店よりも高くても、値上げはできる|世界麵未来研究所

ページコンテンツ

世界麺未来戦略研究所

おはようございます。大和製作所の創業者、ロッキー藤井です。

「原材料費や人件費は上がり続けています。しかし、すでに周辺のお店より価格が高いため、これ以上値上げしてよいのか分かりません」

これは、欧州のお客さまから寄せられた質問です。

月曜日は、値上げの前に、商品とメニューをつくり替える方法をお伝えしました。

水曜日は、売上高だけではなく、一品当たり粗利益と人時粗利益を確認する必要性をお伝えしました。

そして本日は、「それでも値上げが必要な場合、どのように進めるのか」という価格戦略について考えます。

最初に、結論を申し上げます。

周辺店より価格が高くても、値上げはできます。

しかし、すべての商品を一律に値上げしてはいけません。

  • 守る価格
  • 上げる価格
  • 新しくつくる価格

この3つを分けることが重要です。

お客さまは価格だけで店を選んでいるのではない

周辺店より100円、200円高い。その差だけを見て、「これ以上は値上げできない」と考えている経営者は多いと思います。

しかし、お客さまは価格だけで店を選んでいるのでしょうか。

本当に価格だけで選んでいるのであれば、地域で最も安い店だけが繁盛するはずです。

実際には、そうではありません。

  • 味
  • 品質
  • 安全性
  • 店の清潔さ
  • 接客
  • 提供の速さ
  • 店主への信頼
  • そこでしか食べられない独自商品

お客さまは、これらを含めた「全体の価値」で店を選んでいます。

価格が高いこと自体が問題なのではありません。

お客さまが感じる価値より、価格のほうが高くなることが問題なのです。

値上げで最もしてはいけないこと

値上げで最もしてはいけないのは、「原材料費が上がったから、全商品を一律に10%上げる」という方法です。

商品によって、原材料費の上昇幅は違います。

お客さまの価格への敏感さも違います。

店へ入るきっかけになる商品と、利益を生み出す商品も違います。

それにもかかわらず、すべての商品を同じ割合で値上げすれば、店の入口になる商品まで高くなります。

その結果、「以前より、ずいぶん高くなった」という印象だけがお客さまに残ります。

必要なのは、一律値上げではありません。

商品ごとの役割に合わせた価格の再設計です。

英国Pret A Mangerは価格ではなく来店頻度を設計した

英国を中心に展開するPret A Mangerは、単純な値上げだけで収益を確保しようとはしませんでした。

2023年、同社はコーヒーの定額制サービスを「Club Pret」へ拡大しました。

当時の内容は、月額30ポンドで、1日最大5杯のバリスタ製ドリンクに加え、店内の食品、飲料、軽食が20%引きになるというものでした。

この仕組みの重要な点は、単に商品を安くしたことではありません。

お客さまに、繰り返し来店する理由をつくったことです。

当時、定額制サービスは週125万回利用され、前年より11%増加していました。

加入者の月間利用回数は28回。

非加入者は月2回でした。

価格を1回ごとの取引だけで考えず、「お客さまが1カ月に何回来店するか」「長期的にいくら利用してくれるか」という関係性で設計したのです。

値上げが難しい場合、1回の価格だけで利益を取り戻そうとしてはいけません。

  • 来店頻度
  • 追加注文
  • 継続利用

これらを高める方法もあります。

Pret A MangerのClub Pret発表資料

英国Greggsは手頃な入口を守りながら成長した

英国のベーカリーチェーンGreggsは、2024年に売上高が初めて20億ポンドを超え、店舗数も2,600店に到達しました。

同社が強調しているのは、手頃な価格、高品質の商品、親しみやすいサービスを維持しながら成長したことです。

さらに、従来の店舗販売だけに頼らず、朝食、昼食、夕方以降、持ち帰り、配送、新しい立地へと、販売経路と利用時間帯を広げました。

ここから学べることがあります。

すべての商品で利益を最大化しようとしないことです。

お客さまが安心して店へ入れる商品を残す。

その一方で、セット、追加商品、利用時間帯、販売経路を広げ、店全体で利益を確保する。

入口価格を守りながら、利益を生み出す場所を増やしたのです。

Greggsの2024年業績発表

日本のすき家は客単価と客数を両方伸ばした

日本のすき家の2025年3月期の既存店実績を見ると、年間の売上高は前年同期比110.5%でした。

客単価は107.8%。

それだけでなく、客数も102.5%でした。

客単価が上がると、客数が減ると考えがちです。

しかし、すき家では客単価が上がりながら、年間では客数も増えています。

もちろん、この数字には、商品構成、販売促進、店舗運営など、複数の要因が含まれています。

それでも重要なのは、「価格を上げれば、必ず客数が減る」とは限らないことです。

お客さまが価格以上の価値を感じれば、客単価と客数を同時に伸ばすことも可能です。

すき家の2025年3月期月次推移

守る価格 上げる価格 新しくつくる価格

値上げを考えるときは、商品を次の3つに分けてください。

1.守る価格

  • 初めて来店するお客さまが選びやすい商品
  • 常連客が価格の基準として覚えている商品
  • 店の看板となる基本商品

これらは、できるだけ価格を守ります。

どうしても値上げが必要な場合も、一度に大きく上げず、慎重に進めます。

入口になる商品まで大幅に上げると、店全体が高くなった印象を与えます。

2.上げる価格

  • 原材料費が大きく上昇した商品
  • 多くの手間や人手を必要とする商品
  • お客さまから高い評価を得ている商品
  • 他店では食べられない独自商品

これらは、価値を説明したうえで、必要な価格へ見直します。

特に、他店と単純に比較されない商品は、価格を見直しやすい商品です。

3.新しくつくる価格

値上げだけではなく、新しい価格帯の商品をつくります。

基本商品

具材を充実させた上位商品

地域食材を使った特別商品

小鉢や飲み物を組み合わせたセット

数量限定の高付加価値商品

このように価格帯を分ければ、お客さまが自分の予算と目的に合わせて選べます。

基本商品を守りながら、上位商品で十分な粗利益を確保できます。

値上げではなく価格の階段をつくる

価格が一つしかなければ、お客さまの選択肢は、「買うか、買わないか」だけになります。

しかし、3つの価格帯があれば、「どれを選ぶか」に変わります。

例えば、ラーメン店であれば、

  • 基本商品 1,000円
  • おすすめ商品 1,250円
  • 特別商品 1,500円

という価格の階段をつくります。

1,000円の商品を残せば、入口価格は守られます。

一方、より高い価値を求めるお客さまには、1,250円、1,500円の商品を選んでもらえます。

大切なのは、量を増やすだけではありません。

  • 使用する食材
  • 調理法
  • 見た目
  • 体験
  • 物語
  • 提供数量

それぞれの価格差に、明確な価値の差をつくることです。

値上げの理由を原価高だけにしてはいけない

値上げのお知らせに、「原材料費や光熱費の上昇により、やむを得ず値上げします」とだけ書いている店があります。

これは、店側の事情です。

もちろん、正直に説明することは大切です。

しかし、お客さまが知りたいのは、「値上げ後も、この店を選ぶ価値があるのか」ということです。

だからこそ、値上げを伝えるときには、守るものを明確にします。

使用する食材の品質を落とさない

麺やスープを店内で丁寧につくり続ける

適正な人員を確保し、サービスを守る

生産者との継続的な取引を守る

安全性と清潔さを守る

スタッフが安心して働ける環境を守る

値上げは、店を守るためだけではありません。

お客さまへ届ける価値を守るために行うものです。

絶対に避けるべき5つの値上げ

1.全商品を同じ割合で上げる

商品の役割と収益性を確認せず、一律に上げてはいけません。

2.周辺店の価格だけで決める

周辺店とは、商品、品質、原価、人件費、家賃、提供価値が違います。

3.値上げの理由を原価高だけにする

店側の事情だけでなく、何を守り、どのような価値を提供し続けるのかを伝えます。

4.量を気づかれないように減らす

説明のない実質的な値上げは、お客さまの信頼を失います。

量を変える場合は、小盛り、並盛り、大盛りなど、選択できる形にします。

5.値上げ後の反応を確認しない

値上げは、実施して終わりではありません。

客数、客単価、注文構成、粗利益、再来店、食べ残しを確認します。

客数を失わない値上げの7段階

1.必要な利益額を明確にする

何となく5%上げるのではなく、月間でいくら利益が不足しているのかを計算します。

2.商品ごとの粗利益を確認する

値上げが必要な商品と、現状価格を守る商品を分けます。

3.入口商品を決める

初めてのお客さまや価格に敏感なお客さまが、選びやすい商品を残します。

4.上位商品をつくる

食材、具材、体験、物語を加えた、高付加価値商品を用意します。

5.追加注文を設計する

トッピング、小鉢、飲み物、デザートなど、満足度と粗利益を同時に高める商品を整えます。

6.値上げの目的を伝える

何を守り、何をさらに良くするための価格改定なのかを説明します。

7.4週間ごとに数字を確認する

客数、客単価、商品別販売数、粗利益額、人時粗利益、再来店の変化を確認します。

感覚ではなく、数字で検証します。

価格は原価に利益を足すだけでは決まらない

原材料費が400円だから、原価率を40%にして1,000円。

このような計算だけでは、価格は決まりません。

価格を決めるものは、少なくとも3つあります。

1つ目は、店が継続するために必要な利益です。

2つ目は、お客さまが受け取る価値です。

3つ目は、他店では簡単に代替できない独自性です。

この3つが重なる場所に、適正価格があります。

周辺店より高いか、安いかだけで判断してはいけません。

周辺店より高くても、

「この商品は、ここでしか食べられない」

「この品質なら、この価格でも食べたい」

「この店には、また来たい」と思ってもらえれば、価格競争から離れることができます。

世界麺未来戦略研究所 第9理論

「価格は、原価から決めるものではありません。お客さまが受け取る価値と、店が継続するために必要な利益の接点で決めます」

安ければ売れるとは限りません。

高ければ売れないとも限りません。

問題は、価格と価値の釣り合いです。

  • 入口価格を守る
  • 価値の高い商品は適正価格へ見直す
  • 新しい価格帯をつくる
  • 値上げの目的を正直に伝える
  • 実施後の数字を確認する

値上げとは、単なる数字の変更ではありません。

誰に、どの価値を、どの価格で届けるのかを決め直す、経営戦略そのものです。

経営者への問い

あなたのお店では、すべての商品を同じように値上げしようとしていないでしょうか。

守る価格、上げる価格、新しくつくる価格を、明確に分けているでしょうか。

周辺店より高いことを恐れる前に、次の2つを確認してください。

  • なぜ、お客さまは自店を選ぶのか
  • 自店でなければ得られない価値は何か

その答えが明確であれば、価格競争から離れ、適正な利益を確保できる店へ進むことができます。

大和製作所では、製麺機の導入だけでなく、自家製麺による商品価値の向上、独自商品の開発、メニュー構成、生産性の改善まで、麺専門店の経営を総合的に支援しています。

価格競争から離れ、独自の価値で選ばれる店をつくりたい方は、ぜひご相談ください。

世界麺未来戦略研究所からのご提案

世界麺未来戦略研究所は、世界の成功事例、AI、商品開発、食感創造、生産性、健康、ブルーゾーン、スーパーアクティブ高齢者、海外展開、人口減少、人手不足、経営戦略を研究し、世界の麺文化を進化させることを目指しています。

今回の内容が少しでも皆さまの商品開発や経営の参考になりましたら、同業の経営者、料理人、お取引先、ご友人へ、このメルマガをご紹介ください。

日本の麺文化は、一社だけでは進化できません。業界全体で学び、知恵を持ち寄り、未来を創ることで、日本の麺文化を世界へ広げていきたいと考えています。

このメルマガは転載・転送を歓迎します。

一人でも多くの仲間と、新しい麺文化を創っていきたいと願っています。

この記事をお読みのみなさまへ

この記事で取り上げている内容で、ご不明点や直接お聞きしたいことなどがあれば、お気軽にお尋ねください。

後日、ご回答させて頂きます

ロッキー藤井の情熱メルマガ【毎週配信】

まずは無料のメルマガ購読からスタート

Picture of 藤井 薫(ロッキー藤井)
藤井 薫(ロッキー藤井)

株式会社大和製作所、株式会社讃匠を創業。
令和5年 秋の叙勲にて「旭日単光章」受章。

1948年5月、香川県坂出市生まれ。国立高松工業高等専門学校機械工学科卒業。川崎重工株式会社に入社し、航空機事業部機体設計課に配属。その後、独立し、1975年に大和製作所を創業。

過去48年以上にわたり、麺ビジネスを一筋に研究し麺ビジネスの最前線で繁盛店を指導。麺専門店の繁盛法則について全国各地で公演を行う。小型製麺機はベストセラーとなり、業界トップシェアを誇る。
「麺店の影の指南役」「行列の仕掛け人」として「カンブリア宮殿」「ありえへん∞世界」「スーパーJチャンネル」等、人気TV番組に出演するほか、メディアにも多数取り上げられる。
また、2000年4月にうどん学校、2004年1月にラーメン学校とそば学校を開校し、校長に就任。

関連記事
麺ビジネスへのAI活用 小さく始めて大きく育てる|末永い繁栄のための大本

うどん、蕎麦、ラーメン店へのAI導入で、イノベーションを実現|永い繁栄のための大本

麺は4,000年、何を変え、何を変えなかったのか

成功企業ほど、「変えないもの」が明確である

値上げする前に確認する5つの数字。売上が増えても、利益が減るのはなぜか|世界麵未来研究所

値上げ前に確認する5つの数字|売上が増えても 利益が減るのはなぜか

外食のデジタル化から、次の麺ビジネスを読む

売れる×儲かる×季節に合う!AIが導く次世代メニューの戦略

“売れる × 儲かる × 季節に合う”!AIが導く次世代メニュー戦略の極意

変化に対応するエフェクチュエーション、手中の鳥の原則、永い繁栄のための大本、新しい思考法

変化に対応するエフェクチュエーション、その1「手中の鳥の原則」~永い繁栄のための大本 新しい思考法~

お客様の5年先を見る会社だけが未来を創る