店主がいなくても同じ一杯を出せますか|職人の感覚を数字に変える商品設計

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職人の感覚を数字に変える商品設計

おはようございます。大和製作所の創業者、ロッキー藤井です。

店主がつくった一杯は、おいしい。しかし、スタッフがつくると、麺の硬さやスープの濃さ、盛り付けが少し違う。

そのため、店主は厨房から離れられません。休みの日でも、店から電話がかかってくる。体調が悪くても、店へ出なければならない。

「自分がいなければ、この味は出せない」。これは、一見すると、職人として誇らしいことのように思えます。しかし、経営の面から見ると、大きな問題です。

店主がいなければ品質を守れない店は、店主の体力と時間に依存しています。店主が年齢を重ねれば、今までと同じように働き続けることは難しくなります。

商品づくりで本当に必要なのは、店主の技術を店主だけのものにすることではありません。店主が生み出した最高の一杯を、スタッフでも再現できる形にすることです。

レシピがあっても 同じ味にならない

「うちの店にはレシピがあるから大丈夫」。そう思っている店主も多いと思います。

しかし、材料と分量を書いただけでは、同じ商品を再現できません。

例えば、レシピに「スープ300mL」と書いてあっても、次の条件によって味は変わります。

  • 丼に注ぐ前のスープの温度
  • 丼の温度
  • タレを入れる順番
  • 油の量
  • 麺が茹で上がってから提供するまでの時間

麺も同じです。

  • 小麦粉の重量
  • 加水率
  • 水温
  • ミキシング時間
  • 熟成時間
  • 麺帯の厚さ
  • 切刃の番手
  • 茹で時間
  • 湯量や、一度に茹でる食数

これらの一つが変わるだけで、食感は変わります。

レシピは、材料の一覧ではありません。おいしさを再現するための条件を、すべて明確にしたものです。

丸亀製麺は 手づくりをなくさなかった

国内の事例として、丸亀製麺があります。丸亀製麺は、すべてを工場でつくった完成品に置き換えたわけではありません。各店舗に製麺機を置き、店内で粉から麺をつくり、「打ちたて」「茹でたて」を提供してきました。

さらに、公式サイトでは、すべての店舗に麺職人が在籍していると紹介されています。

店舗数が増えると、品質をそろえるために、店内での手づくりをやめたくなるものです。ところが、丸亀製麺は、手づくりの価値を残しました。その代わりに、製麺技術を一人の天才的な職人だけのものにせず、学び、確認し、受け継げる技能に変えています。

ここに重要なヒントがあります。標準化とは、手づくりをやめることではありません。手づくりの中にある大切な技術を明らかにし、次の人が再現できる状態にすることです。

参考:丸亀製麺のこだわり

18本のひだで品質を守る鼎泰豐

海外には、台湾発祥のレストラン「鼎泰豐(ディンタイフォン)」があります。看板商品は小籠包です。公式サイトでも、小籠包の薄い皮と、18本のひだが特徴として紹介されています。

小籠包をつくる作業は、現在も人の手で行われています。しかし、単に「上手に包む」という曖昧な指示ではありません。

  • 大きさ
  • 重量
  • 皮の薄さ
  • ひだの数
  • 包み方
  • 完成した状態

こうした基準を明確にし、訓練を重ねることが品質の再現につながります。鼎泰豐のシンガポールの公式採用情報でも、役職ごとの作業標準に基づく訓練や、管理者による商品品質の確認が示されています。また、同社は訓練用アプリも公開しています。作業標準、デジタル教材、実地訓練を組み合わせ、品質を確認する人材を育てることは、自店でも参考にできる取り組みです。

手づくりであることと、標準化されていることは、反対ではありません。数字と基準があるからこそ、手づくりの良さを世界各地で再現できるのです。

参考:鼎泰豐の小籠包とブランドについて

参考:鼎泰豐のシンガポールでの教育と品質管理

参考:鼎泰豐の訓練用アプリ

標準化は チェーン店だけのものではない

「丸亀製麺や鼎泰豐は大きな会社だからできる。うちのような単独店には関係がない」。そう思う方もいるかもしれません。
しかし、単独店だからこそ標準化が必要です。大きな会社には、店主が休んでも代わりになる人がいます。単独店には、代わりがいない場合が多いのです。一人の店主に味も判断も集中していれば、店主が休んだ瞬間に、商品の品質が変わります。
標準化に、大がかりなマニュアルは必要ありません。まず、看板商品一品について、店主が普段行っていることを書き出すだけでよいのです。

一杯の標準書に必要な7項目

看板商品について、次の7項目を一枚にまとめてください。

1. 材料と重量

麺、スープ、タレ、油、具材の量を、グラムで決めます。「適量」「少々」「一杯分」という表現は使いません。

2. 温度

スープの加熱温度、丼の温度、提供時の温度を決めます。おいしいと感じられる温度だけでなく、商品ごとに下回ってはいけない温度の基準も明確にします。

3. 時間

麺の茹で時間、湯切り時間、盛り付け時間、完成から提供までの時間を決めます。

4. 作業の順序

タレ、油、スープ、麺、具材を、どの順番で入れるのかを明確にします。同じ材料でも、順番が変われば味や香りは変わります。

5. 完成した状態

麺の硬さ、スープの色、香り、盛り付け、具材の位置を確認できるようにします。完成品の写真を用意し、見た目は写真で、香りや食感は実際の商品でスタッフと共有します。

6. 失敗の基準

  • スープの温度が何度以下なら提供しないのか
  • 麺が茹で上がってから何秒以上経ったらつくり直すのか
  • 盛り付けが崩れた場合、どこまで直すのか

「提供してはいけない状態」を決めます。

7. 異常時の対応

  • スープが濃い
  • 麺が軟らかい
  • 機械の調子が悪い
  • 材料が不足した

このようなときに、誰へ連絡し、どのように判断するのかを決めます。

数字だけでは おいしさは守れない

すべてを数字にすれば、自動的においしくなるわけではありません。数字は、おいしさを生み出す条件を共有するためのものです。最後に判断するのは、人です。

だから、標準書には「何グラム入れるか」だけでなく、「どのような香りや食感になればよいか」「完成した商品を見て、何を確認するか」も必要です。

数字と人の五感。この両方を使うことで、初めて品質を再現できます。

基準には 許容範囲が必要

現場では、すべてを完全に同じにすることはできません。気温、湿度、小麦粉の状態、仕込み量、茹で釜の状態によって、微調整が必要になります。

大切なのは、店主の感覚をそのまま残すのではなく、「どの状態なら調整が必要か」「何を見て判断するか」「どの範囲まで変更してよいか」を伝えることです。

例えば、「生地が硬いと感じたら、水を増やす」では、人によって判断が異なります。

それよりも、「ミキシング後の生地がこの写真より乾いている場合は、責任者へ確認する」「加水量の変更は、定めた範囲内にする」と決めた方が、正しく判断できます。

標準化とは、何も考えずに同じ作業を繰り返すことではありません。判断するための基準を共有することです。

標準書は 店主だけでつくらない

店主が一人で立派な標準書をつくり、スタッフへ渡しても、現場では使われないことがあります。実際に商品をつくるスタッフと一緒に確認してください。

  • 分かりにくい言葉はないか
  • 手順が飛んでいないか
  • 現実の厨房動線と合っているか
  • 忙しい時間帯でも実行できるか
  • 新人でも理解できるか

スタッフに実際につくってもらい、店主の商品と比較します。違いが出たら、スタッフを責めるのではありません。標準書のどこが伝わっていないのかを確認します。

人の失敗として処理せず、仕組みの不足として直していく。これを繰り返すことで、使える標準書になります。

最初は 看板商品一品だけでよい

すべての商品を、一度に標準化しようとしてはいけません。まず、お客さまから最も多く注文される看板商品を一つ選びます。店主がつくったものと、スタッフがつくったものを並べます。

  • 味
  • 食感
  • 温度
  • 見た目
  • 提供時間

違いが出た部分を、数字と写真、必要に応じて香りや食感の説明で共有し、1週間試します。毎日、営業前または営業後に一杯つくり、基準通りにできているかを確認します。

一品が安定したら、次の商品へ進みます。一度に全部行うより、一品ずつ確実に進める方が、結果として早く定着します。

明日から始める 一杯の見える化

明日の営業前に、店主自身が看板商品を一杯つくり、次のことを記録してください。

  • 何を量ったか
  • 何度にしたか
  • 何秒かけたか
  • どの順番で行ったか
  • どこを見て完成と判断したか

可能であれば、作業の途中と完成品をスマートフォンで撮影します。

次に、スタッフへ同じ商品をつくってもらいます。店主の一杯との違いを、一緒に確認します。

この比較によって、店主が無意識に行っていた技術が見えてきます。店主にとって当たり前のことほど、スタッフには伝わっていないものです。

世界麺未来戦略研究所からの提言

「標準化とは、職人を不要にすることではない。職人の最高の仕事を、次の人へ渡せる形にすることである」

感覚だけでつくられた味は、その人と一緒に消えてしまいます。しかし、材料、重量、温度、時間、手順、完成基準が残っていれば、その技術は次の人へ受け継がれます。

  • 店主が休んでも、同じ一杯が出せる
  • 新人が入っても、正しく学べる
  • 店主が年齢を重ねても、店の味を残せる
  • 次の世代へ、看板商品を渡すことができる

標準化は、個性をなくすためのものではありません。店主が長い時間をかけてつくり上げた個性を、未来へ残すためのものです。

経営者への問い

あなたのお店の看板商品は、店主がいなくても、同じ味、同じ食感、同じ見た目で提供できるでしょうか。

大和麺学校では、麺づくりの技術だけでなく、材料、加水率、熟成、茹で時間、スープ、盛り付けまで、商品を数字で再現する方法を学ぶことができます。

店主の感覚だけに頼らず、自店の最高の一杯を次の人へ受け継ぎたい方は、ぜひご覧ください。

世界麺未来戦略研究所からのご提案

世界麺未来戦略研究所は、世界の成功事例、AI、商品開発、食感創造、生産性、健康、ブルーゾーン、スーパーアクティブ高齢者、海外展開、人口減少、人手不足、経営戦略を研究し、世界の麺文化を進化させることを目指しています。

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藤井 薫(ロッキー藤井)

株式会社大和製作所、株式会社讃匠を創業。
令和5年 秋の叙勲にて「旭日単光章」受章。

1948年5月、香川県坂出市生まれ。国立高松工業高等専門学校機械工学科卒業。川崎重工株式会社に入社し、航空機事業部機体設計課に配属。その後、独立し、1975年に大和製作所を創業。

過去48年以上にわたり、麺ビジネスを一筋に研究し麺ビジネスの最前線で繁盛店を指導。麺専門店の繁盛法則について全国各地で公演を行う。小型製麺機はベストセラーとなり、業界トップシェアを誇る。
「麺店の影の指南役」「行列の仕掛け人」として「カンブリア宮殿」「ありえへん∞世界」「スーパーJチャンネル」等、人気TV番組に出演するほか、メディアにも多数取り上げられる。
また、2000年4月にうどん学校、2004年1月にラーメン学校とそば学校を開校し、校長に就任。

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