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誰も知らない、博多とんこつラーメンに潜む不思議な力
ラーメンはすでにグローバルフードになっています。しかしなぜ、海外では豚骨ラーメンの人気が高いのか、知っていますか?
日本人と外国人の味覚の差
当社は、ラーメン学校を既に20年近く開校し、世界中に数千名の生徒さんを送り出してきました。
すると、国内と海外での食文化の違い、同じ国でも地方による食文化の違いが良く分かってきたのです。
そして、日本人が好むラーメンの味と外国人が好むラーメンの味にも違いがあることが分かりました。
これは、長い歴史のなかで培われてきたさまざまな「民族の文明」「習慣」「食文化の違い」「地域の気候風土」「地形」「地質の影響」が大きいのです。
したがって、日本から海外への出店、或いは、海外のレストランオーナーがラーメン店とか、うどん店のような日本の食文化の味を提供する場合の参考にして頂きたいと思います。
一般的に、日本人と外国人の味覚の違いについては、次のようなことが明らかになっています。
- 日本人は、世界でもトップクラスに微妙な味を理解できる人種で、味覚力が高いことがわかっています。
- UMAMIと表記して国際語にもなっている「うま味」は、昆布やカツオ節の旨味成分が日本人科学者によって発見された第5の味で、「グルタミン酸」「イノシン酸」「グアニル酸」の3つの代表的なうま味物質があることが解明されています。「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、旨味が国内外で注目を集め、日本人の方が旨味を感じる力が強いのです。
- 古来からの伝統的な日本料理は、うま味を上手に引き出す方法に長けていて、うま味の食文化が発達し、これと比較して、欧米では強いコクを求める文化が発達したのです。洋風の濃いスープとか、ヨーグルト、チーズ等の動物性発酵食品は強いコクを求めた食品と言えるのです。
- 日本人は、一般的に塩辛い味を好む民族で、世界では日本人ほど、塩辛い味を好まない民族が多い。
- 日本は、湿気が多い国だから、比較的唾液の分泌量が少なく、唾液の分泌量の多い欧米人は水分の少ないパンを食べることが出来るが、日本では麺類の様に、スープの中に麺が入っているような水分の多い料理が多い。
- 日本人は、比較的熱い料理を食べることが出来る民族。
日本発の世界的イノベーション「ラーメン」
元々、ラーメンは、中国から日本に渡ってきた麺料理です。中国では4千年前から、蘭州では多加水の麺生地で、手延べでのラーメンが作られていて、スープは牛のブロック肉を炊いた牛肉のスープに塩、香辛料で味付けしたあっさりしたラーメンスープだったのです。
したがって、蘭州ラーメンのスープのエキス濃度は高くなく、日本の豚骨スープのように白濁しているスープではないのです。
中国にも、一部で白濁したスープのラーメンが、以前から作られている場所もあったようですが、日本のような濃いとんこつスープではなかったようです。
日本のとんこつスープの歴史は、ウイキペデイアによれば、第二次世界大戦前から始まり、大きく進化したのは第二次世界大戦後です。
1937年(昭和12年)春、素麺の産地でもある長崎県島原市出身の宮本時男が、久留米に南京千両を開業したのが原点のようです。
「当時横浜で流行していた支那竹入りの支那そば」と、出身地の「長崎ちゃんぽんの白濁した豚骨ベースのスープ」を元に豚骨ラーメンを提供したのが、博多ラーメンのルーツであり、久留米ラーメンないし豚骨ラーメンの発祥として最も有力な説のようです。
とんこつスープは、最初の頃は現在の様にスープ濃度が高くなかったのが、時代とともに、濃度が上がり、現在の平均では約8度ですが、高いものは12度程度までの濃い濃度のスープがあります。
とんこつラーメンだけに関わらず、ラーメンの歴史を振り返ると、スープのエキス濃度は上がり続けています。
以前に当社のラーメン学校に参加した生徒さんで、戦後に人気があり、大変美味しかった中華そばの味を再現したいと昔のレシピを持参して、参加したのです。
私はそのレシピに大変興味があったので、一緒に再現したのですが、エキス濃度が1度程度で、大変低かったのです。
現在のラーメンを知り抜いているわれわれが食べると、全然物足りない味だったのです。
要するに、ラーメンの進化の歴史はスープ濃度が高くなり、濃縮された旨味と強いコクを持つ味になり、お客さまを病みつきにする、麻薬のような味に変化し続けているのです。
日本でイノベーションを起こした魔法の味、それが日本のラーメンなのです。
それでは、ラーメンのスープに欠かせない要素である、旨味とコクについて、触れていきます。
うま味について
「うま味」は、われわれが舌で感じる5つの基本味のひとつで、基本味は、次の5つから成り立っています。
- 甘味
- 酸味
- 塩味
- 苦味
- うま味
甘味、酸味、塩味、苦味、うま味という5つの基本味は、どれも他の味を混ぜても作れない基本の味なのです。
西洋料理では、うま味という概念はなく、日本の十大発明家の1人池田菊苗博士がうま味を発見したので、今ではうま味を表現する言葉として、UMAMIが世界標準語となっているのです。
うま味は、おいしいと勘違いされることが多いのですが、実際はうま味と美味しさは別ものなのです。
おいしさというのは、食べるときの味そのものだけでなく、「匂いや食感」「その場の雰囲気や体調」など、多くの要因に影響されて感じるもので、同じ料理を食べても、ある人は美味しいと感じ、他の人は感じないなので、人によっても基準が異なります。
グルタミン酸がうま味の代表選手で、化学調味料には、必ず、グルタミン酸が主成分になっているのです。
昆布だしの味のあの深いコクとまろやかさがうま味の代表的な味わいで、この味を生みだしているのが、グルタミン酸なのです。
うま味物質には大きく分けて、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などに分類されます。
グルタミン酸はたんぱく質を構成する20種類のアミノ酸の中の一つで、イノシン酸、グアニル酸は核酸に分類されます。
これらのうま味物質はさまざまな食品に含まれており、グルタミン酸は昆布や野菜などに、イノシン酸は魚や肉類に、グアニル酸はきのこ類に多く含まれています。
うま味には、相乗効果があり、この3種類のうま味を重ねることで、うま味が更に強くなり性質があります。
ほとんどの美味しい食品は、このうま味の相乗効果を活用していますが、ラーメンはその最たるものです。
当社のラーメン学校では元だれの材料に、このようなうま味成分の強い材料である海産物では、昆布、煮干し、アサリ、エビ、貝柱、サバ、ウルメ等、野菜では、ニンニク、玉ねぎ、長ネギ等、或いは生徒さんの希望で更に、特殊な食材を使い、旨味の多重効果を狙っています。
スープベースのうま味と元だれのうま味が重なりあい、更に、香味油に含まれている材料のうま味も重なり合い、複雑な旨味を醸し出すのです。
一般的にうま味を強くする方法は、以下の通りです。
- 食材を乾燥させる(昆布、煮干し、雑節、干しシイタケ等)
- 食材に熱を加える(焼きトマト、焼き干し、あぶりチャーシュー、焼肉等)
- 食材を熟成させる(熟成肉等)
- 食材を燻製にする
コクについて
コクは、昔からおいしい食べ物を表現する言葉としてよく使われておりますが、コクと美味しさは関係ないのです。
たとえば、夏場に食べるスイカとか、ナシも非常に美味しいフルーツですが、いくら美味しくてもこれらの食べ物には、一切、コクはありません。
日常、われわれは食事をしたときに、「こく」があっておいしいという言い方を当たり前のようにしてますが、コクは、濃いが名詞化された濃く、あるいは中国で穀物の熟したことを意味する酷に由来すると言われているのです。
食べ物のおいしさに関する「こく」に対しては、きちんとした定義が無いのが現状です。
おいしさは人によって異なっており、主観的な評価であるのに対して、コクは客観的な評価であるのです。
コクのある食品として、多くの人は、カレー、シチュー、豚骨ラーメンなどを挙げるのですが、これらの食品は、少しとろみがあり、濃厚な風味を有するもので、誰が食べても、濃厚感を感じることができます。
なぜなら、豚骨ラーメンから感じられる濃厚感は、豚骨ラーメンがもつ味、香り、食感に関わる刺激によりもたらされるものであり、そのものの好き嫌いに関わらず、ヒトの味覚、嗅覚、触覚は同じ刺激を受けているからです。
しかし、コクのある豚骨ラーメンをおいしいと感じるかどうかは、その人の食習慣、食体験、体調等の要因で異なってきます。
コクに関する多くの研究の結果、コクは、味の濃厚感、持続性や広がりを強める効果を指しています。
さらに、コクは、味、香り並びに食感による複数の刺激で引き起こされる現象であると考えられ、普段からコクがあっておいしいと思っている豚骨ラーメンを、鼻をつまんで食べると、コクの感覚が半減してしまいます。
これは、鼻をつまむことによって、豚骨ラーメン独特の香りを全く感じられず、コクを感じることができなくなってしまうためで、コクには、味だけでなく、香り、食感によるすべての感覚が関わっており、それらの刺激がバランスよく与えられるときにコクが感じられるのです。
多くのお客さまを虜(とりこ)にしている豚骨ラーメンの美味しさの秘密は、何重にも重なったうま味成分の相乗効果と麻薬のように効いているコクの相乗効果であったのです。
さらに、欧米ではコクの強い食べ物が好まれ、チーズ等の発酵食品はその最たるものです。
反対に日本の伝統的な食文化では、うま味が好まれ、味噌汁、おすまし等は、旨味を楽しむ料理なのです。
うどん、蕎麦の出汁も同様に、コクではなく、うま味を楽しむ食べものなのです。
一般的に、コクを増す方法は
- 食材を発行させる(味噌、醤油、魚醤、ヨーグルト、チーズ、酢等々)
- 長時間の煮出しによる濃縮
- 濃縮
結論
最初に指摘した日本人と外国人の塩味に関する味覚の違いについてですが、日本のラーメンの中でも特に、博多トンコツラーメンが世界で人気があるのは、スープが濃厚でコクがあるので、その分、元だれの量が少なくて済み、元だれの塩分が少ないので、塩味のレベルが他のラーメンに比べると、非常に低いためです。
一般的に、外国人は日本人ほど塩辛い食べ物は食べないので、スープ濃度の高い、博多トンコツラーメンとか、鶏白湯ラーメンは、コクが強く食べやすいのです。
スープベースの濃度と、元だれの量には反比例の関係があり、スープ濃度が高いと元だれの量は少なく、塩辛くないのです。
反対にスープ濃度の低い、清湯系の醤油ラーメン等では、元だれの量が多くなり、塩度が高くなるので、高い塩度を好まない海外のお客さまには、受け入れられないのです。
最近のラーメン学校に参加する海外の生徒さんの多くは、ビーガン、ハラルでのスープを希望する方が非常に増えています。
そして、その要求レベルは非常に高まっています。
これからのラーメン業界を背負っていく皆さま、或いは、これからのうどん、蕎麦等の麺業界を背負っていく皆さまは、味作りの原理原則を基礎から学び、さらに、新しい知識、ノウハウの獲得をオススメします。
当社のラーメン学校、うどん学校、蕎麦学校では、新規開業の方々、既に開業しているが、学び直しが必要な方々に対応しています。
さらに、時間的な制約で、リアルの学校参加が難しい人のためのe-learningも準備しております。
さいごに
今回は麺については触れていませんが、博多とんこつラーメンのような濃厚スープにマッチした麺は少加水の細麺で卵白を使った歯切れの良い、粒状食感の麺が最適です。
少加水とか、中加水麺は製麺機が日本で発明されたために実現した麺で、もし、製麺機が発明されていなければ、存在しなかった麺なのです。
博多とんこつラーメン用の麺は、タンパク質の高い強力粉を使い、さらに卵白でタンパク質を強化し、粘りのない歯切れの良い、粒状食感が独特の持ち味です。
麺サイズは、26番以下の細いストレート麺が特徴です。
加水は最低で25%、最高で28%程度で、日本で製麺機が発明されたために、製造が可能になった麺と言えます。
手作業では絶対に作れない麺なのです。