はじめに
今回の東京ラーメン学校には、アメリカから2名、日本から3名の計5名の生徒さんが参加されました。そのうち1名は、約10年前にラーメン学校を受講され、最近うどん学校にも参加されたばかりの卒業生の方でした。
参加された生徒さんの中には、現在ラーメン店を経営されている方から、これから飲食業を始めたいという初心者の方まで、幅広い経験レベルの方々が集まりました。それでも皆さん積極的にコミュニケーションを取り合い、情報交換や学び直しの場として、とても良い雰囲気の学校になったと思います。
生徒さんたちは、スープ合わせや香味油、トッピングなど、ラーメンの味調整に特に強い関心を持たれていました。何度もスープ合わせを繰り返し、講師と一緒に目指している味に近づけるよう研究を重ねる姿が印象的でした。
これまでお店を続けてこられたからこそ、改めて基礎を学ぶ
印象に残っているのは、関東地方からお越しになった、現在ラーメン店を経営されている生徒さんです。この方は、お父様の代から続く飲食店をラーメン店として経営されています。
お店を立ち上げた当時、資金的な余裕もなく、学校に通うこともできなかったそうです。今まで、すべて独学でラーメン作りを始め、がむしゃらに走り続けてこられました。スープも元だれも、すべて自己流で作り上げてきたとのことです。
何年も経って、ようやく社員の方にお店を任せられるようになり、自分自身が現場から少し離れられる時間ができました。そんな中で、「基礎を知らない」という自分の課題に気づかれたそうです。だからこそ、今回「理論に基づいた基礎を一から学んで、もう一度ラーメンを作り直したい」という想いで参加されました。
学校中は、どのスープも元ダレに対しても、本当に真剣に向き合われていました。講師の話を聞くことも大切ですが、それ以上に、ずっとスープを飲み続けて味を確認されている姿が印象的でした。
そして何より、一番驚かれていたのが「無化調でこんなに美味しいものが作れる」ということでした。
素材の味を活かす|無化調での味作り
独学でラーメンを作り始める方は、どうしても化学調味料に頼りがちになります。化学調味料は確かに便利です。一つ入れるだけで味がまとまります。でも、無化調で味をまとめていくというのは、本当に難しいことでもあります。
生徒さんは、最初、無化調でのレシピを見た時、正直疑っていたそうです。でも実際に、大和麺学校のレシピ表を見ながら一つひとつ作ってみて、それを味わった時、「無化調でこんなに美味しいものができるんだ」と実感されたとのことでした。
無化調のラーメンは、化学調味料を使ったものと比べて、スープの後味がすっきりしています。ラーメン自体、塩分濃度の高い食べ物ではありますが、化学調味料が入っていると、食後に喉が異常に渇いたり、舌に痺れるような感覚が残ったりすることがあります。それは、ナトリウムを過剰に摂取してしまっているからです。
無化調にすることで、そうした身体への負担を少しでも軽減できます。健康面でも、味の面でも、無化調で美味しいラーメンを作り続けるというのは、本当に価値のあることだと考えています。
お店を数年されてきた中で、何年も試行錯誤してきた方が、この無化調での味作りを学べたことは、今回の学校の中でも特に大きな意味があったのではないかと思います。
海外からの生徒さんたち
アメリカから参加されたお二人は、パートナー同士で、これから豚骨醤油のラーメン店を開業される予定でご参加されました。
お二人とも、担当したスープには責任を持って管理され、いつも笑顔で楽しい雰囲気を作ってくださいました。香味油の実習では、にんにく油をゆっくり丁寧に作ることができましたし、トッピングではチャーシューに大変興味を持たれ、食べ比べを楽しみにされていたのが印象的でした。
豚骨醤油のラーメンを目指しているということで、学校では豚骨醤油味のスープをたくさん試作しました。アメリカでは日本に比べて塩分濃度が少し低めのものが一般的とのことで、試作をたくさん重ねていらっしゃいました。
女性の方は特に、塩分が控えめな味を好まれていました。私たち講師たちが味見をして、「麺を入れたらもっと味が変わる」「個人的には好みかもしれないけれど、万人受けはしない」といったアドバイスをさせていただきました。
自分が好きな味と、お店として提供する万人受けする味は、やはり違う部分が実際にあります。特に家庭の味と、外食として飲食店で提供する味は、はっきり差別化しなければなりません。ラーメンやうどんは、日常食べるものとは違う「非日常感」があるからこそ、お客様に選ばれる部分もあります。
個人としての味の感覚も大切ではありますが、そのあたりの違いも含め、そうしたことを、お二人には実際に何度もスープ合わせをする中で、一緒に考えていただきました。
卒業生の再参加
今回、約10年前にラーメン学校を受講され、最近うどん学校にも参加された卒業生の方が、再びラーメン学校に参加されました。うどん店の方に興味があるものの、ラーメンでも応用が利くのではないかと考え、今回の参加を決められたそうです。
うどんにするか、ラーメンにするか、まだ完全には決めきれていない部分もあるようでしたが、両方を学ぶことで、自分の進む道を見極めようとされている様子が伝わってきました。
2回目の参加でしたが、一から学び直しをされており、細かくメモを取ったり、周りの生徒さんに気配りをしてくださったりと、学校全体の雰囲気を支えてくださいました。
低温調理のチャーシューを実際に調理した際には、その温度の低さに驚かれていましたし、試食を楽しみにされている様子が印象的でした。
模擬店では、丁寧かつ素早く盛り付けができており、経験者としての力を発揮されていたように思います。
スープ研究では、豚骨醤油で味を濃くし、びゃんびゃん麺と合わせるなど、独自のアレンジにも挑戦されていました。
参考店視察から、「コンセプト」の重要性を学ぶ
授業の一環として、参考店視察に行きました。今回伺ったのは「鬼金棒」というお店です。
鬼金棒は、「鬼」と「金棒」、そして「カラシビ」をコンセプトにしたラーメン店で、店内のインテリアも鬼ヶ島を思わせるような雰囲気になっています。
店内にはずっと和太鼓の音が流れていて、「どんどんどんどん」という音が、コンセプトに合った雰囲気を作り出しています。
訪れた時は夕方6時頃でしたが、すでに長いの列ができていました。お客様のほとんどが外国からの観光客で、それだけ海外の方に支持されているお店だということがよく分かりました。
ラーメン店を開業する上で、味はもちろん大切です。でも、それと同じくらい、お店のコンセプトや雰囲気作りも重要なんです。そうしたことを、生徒さんたちには実際に体験して学んでもらいました。
参考店視察のあと、日本人の生徒さんの中には、学校終わりに、お店を2件ほど回られた方もいらっしゃいました。学校に来ているからこそ時間が取れる。そうした機会を活かして、自ら学びに行く姿勢は、本当に素晴らしいことだと思います。
今回の学校を通して、経験者の方も初心者の方も、それぞれが真剣に学び、お互いに刺激し合いながら成長されていく姿を見ることができました。
事前の準備の大切さ
今回、海外からお越しの生徒さんは、事前にしっかりとリクエストを伝えてくださっていました。「豚骨醤油のラーメンを作りたい」という明確な目標があったからこそ、こちらでも準備ができ、的確にアドバイスすることができました。ただ、一つ難しかったのは、現地で手に入る食材との違いです。
日本では、ラーメンの材料は何でも仕入れようと思えば仕入れられます。でも、海外ではそうではありません。
例えば、もし生徒さんが「サーモンを使ったスープを作りたい」とリクエストされた場合、日本ではサーモンの骨がなかなか手に入らないため、鯛で代用して授業を進めることもあります。
代用すると全く同じ味にはなりませんが、現地の味を再現するためにどう工夫するか、そうしたことを一緒に考える時間も、学びの一部になっていると感じます。
できる範囲で、事前に「どんな食材を使いたいか」「どんなラーメンを作りたいか」を共有していただけると、こちらでも準備ができて、より充実した授業ができます。
それぞれの土地や環境に合わせた「自分だけのラーメンづくり」を、一緒に模索してしつつ、せっかく麺学校に来たのだから、この環境を活かして、自分で手を動かして、体感として、実体験を持って帰ってほしい。そう思っています。
失敗を恐れずに実践しながら、その経験から学んでいってほしいです。
進化し続ける学校
生徒さんたちが、分からないことを質問してくれることは、講師にとっても本当にありがたいことです。こちらは「分かるだろう」と思って話していることも、実は分かりにくかったりすることがあります。質問してくれることで、「こういうところが分かりにくかったんだな」「こういう風に説明した方がいいんだな」と気づくことができると思っています。
だから、カリキュラムや実習の流れも、ちょっとずつ変えています。来る人が分かりやすくなるし、こちらも進化できる。
大和麺学校は、ずっと進化し続ける学校でありたいと思っています。
さいごに
卒業された皆さんには、ずっとサポートし続けるので、頑張ってくださいということを伝えたいです。
海外の方だから、日本人だから、そういうことは関係ありません。電話では、すぐお答えすることは場合によっては難しいかもしれませんが、メールをしてくれれば、海外の方なら翻訳機能も使えますから、コミュニケーションは取れます。学校のあとでも、こちらにアクションしてくれれば、私たちも返すことができます。何かしらのアクションをしてくれたら嬉しいです。
「開業しました」「こんなメニューを作りました」「今、こんなことで困っています」どんな小さなことでも構いません。
私たちが答えられることは、精一杯答えさせてもらいます。そんな中で、「開業までこぎつけました」「繁盛しています」といった話を、少しでも聞けたら、こちらも本当に嬉しいですし、励みになります。これからも頑張ってほしいです。
大和麺学校レポート一覧
ラーメン学校
日程 5日間
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2025年9月開催分より授業スタイルを見直し、実技中心の構成としたため、開催期間を1日短縮しております。指導内容に変更はなく、より効率的に技術を習得していただけます。