
「あなた、本当にそう思いますか?」
思わず藤井薫の声のトーンが上がる。
「本当にそう思っていますか?」
先ほどのセリフがもう一度繰り返された。
気迫に気圧されてか、思わず静まり返るツアー参加者。
「ちょっと待っていて下さい」
藤井薫がおもむろに扉を開け、会議室を出て行った。
大和体験セミナー2日目の朝、営業本部会議室にて起こった出来事である。
事の始まりは早朝セミナー中に、
「当社が何故、このようなツアーを開催しているか分かる方いますか?」
という藤井からの質問であった。
誰かが口を開いた。
「製麺機を売る為じゃないんですか?」
この言葉により、場の雰囲気が一変したのである。
しばらくして、出て行った藤井が何やら重そうな荷物を抱え、戻ってきた。
「皆さん、これを見てください。何かわかりますか?」
荷物を机の上に置き、先ほどを上回る声のテンションでそう言ったかと思うと、矢継ぎ早に説明を始める。
「ダイレクトメールです。当社が送ったダイレクトメールが宛先が無くなって帰ってきたんです」

藤井が抱えて戻ってきたのは、おおよそ、お客さんに見せるべきでは無いような
返送されたダイレクトメールの山だったのだ。
山積みになったダイレクトメールを叩きながら藤井は続けた。
「これが現実です。現実に、これだけの数のお店が無くなっているんです」
さらに藤井のテンションが上がる。
「全国にうどん・そば店は約40,000件あります。その中のたった数%にダイレクトメールを送っただけで、
これだけの数が帰ってきてるんですよ!」
「当社は、潰れてしまうお店を出したくないんです。麺業界を活性化させてくれるような人材を
探すために、こんなツアーをやっているんです!
普通は、うどん店は儲かりますよ!是非やりませんか?と売り込みをかけるでしょ?
でもね、当社はそんな事絶対にやりません。お店を潰してしまうような人にこの業界へ
入ってきてほしくないですからね。」
麺業界。
全国にうどんそば店が約40,000件、ラーメン店も同じく約40,000件存在する。
大雑把な計算では、うどんそば店で毎年約3,500件、ラーメン店で約4,000件の出店があるが、
その数は決して増えていない。
その数字の意味するところは、毎年約7,500件もの麺専門店が閉店に追い込まれているのだ。
「私はね、せっかく当社と関係を持っていただいたお客さんに幸せになってもらいたいんです。
そして、良い人が居れば、一緒に麺業界を活性化させてもらいたいんですよ。」
-----製麺機を売る為じゃない、業界を良くしたいんだ。
一体何人の人がこの言葉を信じてくれるのだろうか。
しかし、本気でそう思っているからこそ、業界最後発でトップシェアまで上り詰めることが出来た。
そして、トップシェアだということに驕らず、ひたすらに、真剣に麺業界の事を考え続けている。
そんな想いを共有していただくために、赤字覚悟でツアーを開催しているのだ。
早朝セミナーが再開されたのは、件の質問が出てから優に20分が経過した後の事であった。
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